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  • 2023/03/14 掲載

植田新総裁は理解しているのか? 黒田日銀では気づけなかった…深刻すぎる「ある問題」

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日銀の新総裁候補者である植田和男氏の国会聴取が終了し、新体制の大まかな方向性が見えてきた。大規模緩和策の維持をめぐっては賛否両論があるが、最大の問題は意見が割れていることではない。政策当局者や専門家の議論が現実社会と乖離しており、政策コストの著しい増大を招いていることの影響が深刻化している。これはどういうことだろうか。
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政策当局者や専門家の議論は実体経済と乖離しており、これがもたらすコストが増大している…
(写真:REX/アフロ)

政策当局者と実体経済の乖離が大きくなっている

 日銀総裁の仕事が金融政策の遂行であることは言うまでもないが、総裁には同じくらい重要なもう1つの役割がある。それは、会見や講演などを通じて市場や国民とコミュニケーションを図ることである。つまり、同じ金融政策を実施する場合でも、総裁がどのような言い方で市場や国民に説明するのかで、政策の効果が大きく違ってくるのだ。

 以前の時代であれば、政策当局者は金融理論や経済理論にしたがって粛々と説明すればそれで事足りた。しかし、今の日本経済は、低賃金と40年ぶりの物価高騰という大きな逆風を受けており、これまでの時代では考えられないほど、金融政策に対する関心が高まっている。こうした状況下においてコミュニケーションの方法を誤れば、膨大な政策コストとなって当局に跳ね返ってくる。

 この話は、エコノミストや学者など専門家の議論や説明についても当てはまる。

 理論に従って自説をただまくし立てているだけでは、国民や市場の行動を変容させることはできない。同じ説明をするにしても、日々経済活動を行っている人の心理に、政策がどのような影響を与えるのかという点を考慮に入れなければ、意味がないと考えて良いだろう。

 その点において、政策当局者や専門家の議論というのは、相当程度、実体経済から乖離しており、これが政策の効果を減衰させているというのが筆者の率直な印象である。こうした現象は物価見通しの議論にも顕著に表れている。

 具体例をあげてみよう。

 黒田総裁は2022年9月、物価見通しについて「(2023年の)年明け以降、(物価上昇率が)2%を割るのは確実だ」と発言した。実は、こうした断定的な物の言い方は、政策コストを不用意に増大させており、政策の効果を弱くする影響をもたらしている。

 では、この黒田発言のどこがいけないのだろうか。

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日銀総裁がどのような言い方で金融政策を国民に説明するかで、政策の効果は大きく変わってくる
(Photo/Shutterstock.com)

記者団に対するコメントから推測すると?

 現状の為替市場においては金利が大きなファクターとなっており、日米の金利の動きが相場を左右している。今後、日本と米国の金利はどう推移するのだろうか。

 日本にとっては、やはり次期総裁である植田氏の舵取りだろう。あくまでも現時点での予想に過ぎないが、植田氏のこれまでの言動から考えると、当面、大きな政策変更は行わない可能性が高い。なぜなら植田氏の人物像をひとことで表わすと「バランス感覚のある人物」だからである。

 植田氏は日銀審議委員の経験があり、大規模緩和策の導入について理論面で支えてきた人物なので、金融政策にはかなり精通しているとみてよい。だが、現時点での金融政策について、数多く発言する立場にはなかった事から、どのような見解を持っているのかについては、現時点において十分な情報がない。

 植田氏は、政府が総裁への起用を決めたとの報道を受け、ごくわずかだが記者団に対してコメントしている。それによると植田氏は、「金融政策は、景気と物価の現状と見通しに基づいて運営しなければならない」「その観点からすると、現在の日本銀行の政策は適切である」と述べている。

 日銀は現在、金利や物価の見通しを市場に対して明確に示す、フォワードガイダンスという手法を導入している。植田氏の発言は、この手法を踏襲する意向であると解釈でき、そこから演繹すると、当面は現状の緩和策を継続する可能性が高いとの解釈になる。

 また、自身の経歴に対する質問に対しては、「学者としてやってきたので、判断を論理的に行う、説明を分かりやすくすることが重要」とも説明している。

 一連のコメントを総合すると、現在の緩和路線は当面継続するのが妥当であり、フォワードガイダンスの原理原則に従って、論理的かつ明確に金利や物価動向について示したい、と読み取れる。

自営業者や投資家は「想定外」では済まされない

 そもそも論として、将来の物価がどの程度になるのか、正確に予言するのは不可能である。政策当局者や専門家は、現時点で得られるデータをもとに、理論やモデルに従っておおよその予測を立てているのが現実だ。そうなると、予測が立てやすい状況と立てにくい状況に分かれることになり、予測の精度も当然のことながら状況によって変わってくる。

 実地で商売をしている人や投資をしている人、輸出入に関わっている人も、学術的ではないかもしれないが、日々得られる情報や経験則などから、ある程度の将来見通しを立て、日々の業務を行っている。

 利用するツールに違いがあるだけで、両者のプロセスに大きな違いはない。だが、政策当局者や専門家は、時に理論やモデルに偏りすぎるあまり、断定的に分析をしてしまう傾向があり、これが実体経済にマイナスの影響を与えている。

 昨年後半は急激に円安が進んだことで、多くの実務家が今後の仕入れ価格の上昇を危惧しており、「今後物価上昇が激しくなる」という見立てについて確信しやすい環境にあった。仮に原油価格の低下など、別な要因で物価が落ち着く可能性があったとしても、実務家は価格上昇リスクを想定程度、織り込んで行動する。

 こうした環境下において、いくらロジックを立てた上での発言だったとしても、物価が下がるのは「確実」などと発言すると、実務家は「日銀は不測の事態を考えていない」「この政策は危うい」との印象を持ってしまう。

 政策当局者や専門家は、何か不測の事態が発生しても「想定外」で済ませることができるが、自営業者や投資家なら即、破産である。社会における立場の違いが、同じ状況に直面しても、異なるスタンスを生み出してしまうのだ。 【次ページ】いい加減、コストの大きさに気づくべき
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