0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
日銀の総裁人事が市場にとってサプライズだったこともあり、金融政策の不透明性が増している。米国もFRB(連邦準備制度理事会)が利上げ幅縮小に転じた直後に、想定外の強い雇用統計が出るなど、市場の認識と実体経済のギャップが目立っている。今後の金利や為替の動向について、どう考えればよいのだろうか。
為替市場は新総裁をどう評価してよいか分からなかった
政府は日銀の黒田東彦総裁の後任に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏を起用する方針を固めた。後任総裁の本命は、現副総裁の雨宮正佳氏と言われていたので、市場にとってはサプライズ人事となり、金融政策の不透明性は一気に高くなった。
人事が報道された直後の外国為替市場では、1ドル=131円台半ばから129円台後半まで一気に1円上昇したものの、その後は急ピッチで買い戻され、ふたたび131円台に戻している。その後、米国の消費者物価指数が発表され133円台まで円安が進んだものの、これは米国要因であり、国内の金融政策とは関係ない。一連の為替市場の動きからも、今回の人事について、市場がどう評価してよいか分からなかったことを示唆している。
一方、米国は2月1日のFOMC(連邦公開市場委員会)において、政策金利を4.5%から4.75%に引き上げる決定を行った。従来の利上げ幅は0.5%だったが、早期の利上げ終了を望む声が高まっていることや、インフレがピークアウトする兆しも見えていることから利上げ幅の縮小を決めた。
ところが3日に発表された1月の雇用統計は、失業率が前月より0.1ポイント低い3.4%と、1969年5月以来の低水準となった。加えて、農業分野以外の就業者数が市場の予想を大きく上回り、前月比で51万人も増加するなど、依然として人手不足が深刻であることが明らかとなった。
米国のインフレは、原油価格や食糧価格など一次産品の価格上昇に加えて、賃金高騰によるサービス価格の上昇が大きく寄与しており、雇用の動向に注目が集まっている。ここまで労働市場がタイトということであれば、インフレは当分、続くとの見通しに説得力が出てくる。市場ではふたたび、利上げが強化されるとの見方が高まっており、金利動向は読みにくくなった。
記者団に対するコメントから推測すると?
現状の為替市場においては金利が大きなファクターとなっており、日米の金利の動きが相場を左右している。今後、日本と米国の金利はどう推移するのだろうか。
日本にとっては、やはり次期総裁である植田氏の舵取りだろう。あくまでも現時点での予想に過ぎないが、植田氏のこれまでの言動から考えると、当面、大きな政策変更は行わない可能性が高い。なぜなら植田氏の人物像をひとことで表わすと「バランス感覚のある人物」だからである。
植田氏は日銀審議委員の経験があり、大規模緩和策の導入について理論面で支えてきた人物なので、金融政策にはかなり精通しているとみてよい。だが、現時点での金融政策について、数多く発言する立場にはなかった事から、どのような見解を持っているのかについては、現時点において十分な情報がない。
植田氏は、政府が総裁への起用を決めたとの報道を受け、ごくわずかだが記者団に対してコメントしている。それによると植田氏は、「金融政策は、景気と物価の現状と見通しに基づいて運営しなければならない」「その観点からすると、現在の日本銀行の政策は適切である」と述べている。
日銀は現在、金利や物価の見通しを市場に対して明確に示す、フォワードガイダンスという手法を導入している。植田氏の発言は、この手法を踏襲する意向であると解釈でき、そこから演繹すると、当面は現状の緩和策を継続する可能性が高いとの解釈になる。
また、自身の経歴に対する質問に対しては、「学者としてやってきたので、判断を論理的に行う、説明を分かりやすくすることが重要」とも説明している。
一連のコメントを総合すると、現在の緩和路線は当面継続するのが妥当であり、フォワードガイダンスの原理原則に従って、論理的かつ明確に金利や物価動向について示したい、と読み取れる。
【次ページ】最初に直面するのは金利1%をめぐる攻防
関連タグ