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米ドル相場が、ユーロや円など主要通貨に対して数十年ぶりの高値まで上昇している。これを受け、売上の大半を海外に依存する多くの米テック大手は収益で影響を受け始めた。たとえば、マイクロソフトは欧州におけるユーロ建ての売上がドル換算で目減りした。アップルは、ドルベースの儲けを確保するため日本でのiPhone価格を値上げしたことで、新品需要の一部が中古市場に流れた。こうした中、米国内では「悪いドル高」を抑え込もうと米政府が他国と協調介入するかもしれない、との噂がささやかれている。今回はドル高による米テック大手への影響をまとめるとともに、米政府の動向を考察する。
S&P 500企業の売上が13兆円もダウン?
スイスの金融大手クレディスイスの試算によれば、米ドルが他通貨に対して8~10%上昇すると、米企業の収益が平均1%下落する。これは、米国の製品やサービスの価格が現地の通貨建てで上昇して売れ行きに悪影響が及ぶことや、米企業の現地通貨による海外売上がドル建てで目減りしてしまうからだ。
「米優良企業の株式指標であるS&P 500企業の売上は、ドルの上昇により2022年だけでも1,000億ドル(約13兆7,000億円)も押し下げられる」と予想するのは、為替取引などを提供するSNSトレード、eToro(イートロ)のグローバルマーケット・ストラテジストであるベン・ライドラー氏だ。米国の経済は、構造的にグローバルであるのだ。
事実、S&P 500企業では平均で、売上総計の29%を海外で生み出していると、米金融大手のゴールドマンサックスは推計する。そして、対象をS&P 500のIT部門の企業に限れば、売上総計の59%が海外でたたき出されている。国外売上が顕著に高いテック企業は為替変動の影響を特に受けやすいのだ。
今回のドル高局面で特に弱いのが米半導体大手のクアルコムで、なんと売上全体の96%が海外だ。クアルコムほどではなくても、ソーシャルメディア大手フェイスブックの親会社であるメタや動画ストリーミングのネットフリックスはそれぞれ59%、ネット広告大手グーグルの親会社のアルファベットは54%など、軒並み国外への依存度が高い。
ネットフリックス:ドル高で15%の減益
この中でもネットフリックスは近年、飽和状態の米国での会員数が伸び悩み、海外市場に活路を求めてきた。米国内の会員数が減少しても、国外の会員数は伸び続け、全体の売上を伸ばすことができたからだ。
こうして、同社の売上全体に占める海外の割合は59%に達した。リスク分散管理としては、理想的な形であろう。
ところが、新型コロナウイルスによる各国での緊急事態から生じたサプライチェーンの混乱などで米国内の物価上昇が急進。この狂乱インフレに対処すべく、米準備制度理事会(FRB)が度重なる大幅利上げを行った副作用として、米ドルが日本円やユーロなど主要通貨に対して軒並み上昇する結果を招いた。
このため、海外売上の多いネットフリックスの4~6月期売上は、為替変動がなかった場合に前年同期比13%伸びていたはずが、ドル高の影響で海外売上の3億3,900万ドル分(約463億円)がドル建てで目減りし、8.6%の上昇にとどまったのである。
為替差損などにより、4~6月期の営業利益は前年同期比15%近く下落し、15億8,000万ドル(約2,157億円)にとどまった。
また、インフレ退治に集中するFRBの金融引き締め政策がこの先も続き、ドル高傾向が変わらないと予想されることから、7~9月期の売上予想は前年同期比5%の上昇に抑えられ、営業利益は12億5,000万ドル(約1,706億円)と、前年同期比の下落幅が29%に拡大する見込みだ。これは、為替要因がなければ3%の落ち込みで済むはずだったものだという。
そもそも、2021年12月期のネットフリックスの売上は310億ドル(約4兆1,382億円)、純利益は51億ドル(約6,808億円)に達していたにもかかわらず、負債も考慮したフリーキャッシュフロー基準での利益はわずか1億4,000万ドル(約186億円)と、ビジネスモデルは薄利の傾向があった。
これは、製作費の支払いを一括払いではなく分割で長期にわたり行うために利益が実際より大きく見えるためだ。だが、ドル高による為替差損により、同社の収益はさらに圧迫を受けることが予測される。
しかし、株価が下がった今こそネットフリックスの「買い時」であると勧める、米投資サイト「モトリーフール」のような意見もある。FRBの利上げ休止などで将来的にドル高が緩和されれば、ネットフリックスの収益が改善に向かう可能性があるからだ。
【次ページ】メタ・マイクロソフト・IBMは? 米政府はどう動く?
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