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- 2022/01/03 掲載
これからの日本は「アジア人労働力の獲得すら困難になる」という残念すぎる現実
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
韓国、台湾が1人あたりGDPで日本を抜く
日本の所得が米国やヨーロッパなどの先進国に比べて低くなっていることが問題にされている。それは大きな問題だが、それだけではない。アジア新興国や開発途上国の賃金が日本に迫ってきている。賃金そのもののデータは得られないので、その代理変数として、1人あたりGDPで見ることにする。まず台湾と韓国を見よう。以下の図は、日韓台の1人あたりGDP(市場為替レートで換算したドル)の推移を示す。
2000年においては、韓国の1人あたりGDPは日本の31.3%であり、台湾は日本の37.9%だった。2010年には、それぞれ51.1%と42.5%になった。それが、2020年では、78.9%と70.7%になっている。
このように、20年前には日本の3分の1程度の水準だったのが、現在では日本とあまり違わない水準だ。
年間賃金についてOECDの統計によると、2020年において、韓国は4万1,960ドルであり、日本の3万8,515ドルを上回っている(2020年基準の実質賃金、2020ドル表示)。日本の値がほとんど成長しないのに対して両国の成長率は高いので、1人あたりGDPでも、今後、日本を抜いていくことは、ほぼ確実だ。
OECDの長期予測でみると、日本の1人あたりGDPは2040年には5万4,308ドルになり、2060年には7万7,242ドルとなる。しかし、2040年には韓国が5万9,338ドルと日本を追い越す。そして、2060年に韓国は8万3,300ドルとなり、日本より7.8%ほど高くなると予測されている。
台湾はOECDに加盟していないのでこの予測には含まれていないが、韓国と同じような値になるだろう。つまり日本より豊かな国になると考えられる。
製造業で日本企業を抜いている台湾、韓国企業
韓国、台湾、香港、シンガポールは、1970年代においては、工業品の輸出を急増させた発展途上国だった。それが今では、香港とシンガポールは、1人あたりGDPで日本をはるかに上回っている。いまや、韓国と台湾が日本に追いつき、追い抜こうとしているわけだ。1980年代において、日本製品とは、正確さ、品質の高さの代名詞だった。この当時、日本の賃金は世界的に見てかなり高かったが、それを正当化するだけの裏づけがあったことになる。現在日本の賃金が低いことは、日本の製品がそれだけのものとしてしか評価されていないことを意味する。
それに代わって、台湾や韓国の企業の躍進が目立つ。シャープは、2016年に電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾の鴻海(ホンハイグループ)に売却された。先進半導体の製品で、どの国のメーカーも台湾のTSMC(台湾積体電路製造)に追いつかない。
日本は、工場建設の総事業費8,000億円のうち4,000億円を補助金として支出して、TSMCの工場を日本に誘致しようとしている。時価総額で見ても、TSMCの6,178億ドル(世界第10位)、サムスンの4,423億ドル(16位)は、日本第1位のトヨタ自動車2,551億ドル(第40位)よりはるかに高い。
中国の1人あたりGDPはすでに日本の3割
中国の1人あたりGDPは、2000年には951ドルだった。日本の2.4%にすぎず、ほとんど比較の対象にもならないほど低かった。しかも、農村部が膨大な余剰労働力を抱えていた。「ルイスの転換点」とは、工業化の進展に伴って、農業部門の余剰労働力が底をつくことを指す。中国は、2004年頃にこの状態に到達したとみられている。これ以降は、成長に伴って賃金が上昇する。 2010年には1人あたりGDPが4,500ドルとなり、日本の10%になった。そして、2020年には、1万511ドルとなり、日本の26.2%だ。
中国の成長率は韓国、台湾よりさらに高いので、今後、日本との差は縮小していくと考えられる。
中国の1人あたりGDPを他のアジア諸国と比べると、2000年にはマレーシア、タイ、フィリピンより低かった。しかし、2020年ではこれらすべての国より高くなっている。
台湾の国内企業の多くは、中国に生産拠点を築くことで成長してきた。
ホンハイも、1985年にフォックスコン(FOXCONN)のブランドを創立し、 1988 年に中国に進出して、深3W経済特区に工場を設立した。そして、中国の低賃金労働を使用して利益を上げてきた。
しかし、そのホンハイも、今中国からベトナムへの移行を図っている。これには米中貿易戦争の影響もあると思われるが、基本的には、より賃金が安い国での生産を目的とする脱・中国の動きであろう。
【次ページ】東南アジア諸国と日本の所得格差が縮まる
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