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- 2021/12/28 掲載
金融機関に求められる“対話”とは?あなたの組織で変革が起きない理由
江上 広行
株式会社URUU 代表取締役。一般社団法人 価値を大切にする金融実践者の会(JPBV) 代表理事事務局長。地方銀行、システム開発会社を経て2018年9月株式会社URUUを設立。「利益よりも価値を大切にする金融の普及、創発を生む組織対話のファシリテーション、その人らしさを解放するリーダーシップ教育、ワークショップ「エミー・ゼニーゲーム」、対象を金融機関職員向けに限定したコーチング・フォー・バンカー」などの事業を営んでいる。著書に『対話する銀行』(一般社団法人 金融財政事情研究会、2017年)、『誇りある金融』(近代セールス社、共著、2020年) 『金融機関のしなやかな変革』(金融財政事情研究会、共著、2020年)などがある。
川口 英輔
金融庁 監督局 銀行第一課 。2007年に立教大学法学部卒業。金融庁入庁後、検査部門、企画部門を経て、14年(株)東日本大震災事業者再生支援機構へ出向し、事業者支援に従事。17年組織戦略監理官室、18年開発研修室、19年地域金融企画室、21年より銀行第一課。
そもそも“対話”とは何か?どのようにすれば“対話”できるのか
金融庁が公式に「探究型対話」という言葉を使い、「対話」という言葉が金融業界にも広がり始めたのは、2017~2018年度(平成29~平成30年) ごろからです。金融機関に対してルールやマニュアルで統制を効かせようとする金融行政には最もそぐわないように見える「対話」という言葉をなぜ金融庁は使い始めたのでしょうか。平成30年6月に発表された「金融検査・監督の考え方と進め方」にはこのように書かれています。「ベストプラクティスのための『見える化と探究型対話』とは、それぞれの金融機関が経営環境の変化を先取りした業務運営や競争相手よりも優れた業務運営(ベストプラクティス)の実現に向けて競い合い、主体的に創意工夫を発揮することができるよう、 開示の充実や探究的な対話等を進める手法である」。
この文書からは、「対話」に対して正解が存在しないものに対する探求のプロセスであるという意図が感じられます。
新型コロナの蔓延や、気候危機など不確実で変化が加速してくなかで、金融行政にとっても金融機関にとっても、「正解がない時代」へと突入したという大きな構造変化にさらされています。「金融検査マニュアル」が廃止されたことに象徴されるように、金融機関の運営はだれかが示した「正解」に従うのではなく、正解そのものを「探求」するスタイルへと業務運営の転換が求められているのです。
以前、筆者は「対話する銀行」(金融財政事情研究会 2017)」という本を出版しました。それが理由なのか、最近、いろいろな金融機関から「対話を導入したいので、どうすればいいですか」という相談をよくいただくようになりました。
こうした金融機関の多くは、変革のために経営戦略を立てたり、仕組みを作ったりといった施策に取り組んだ挙句、それでも成果が出ず「組織文化そのものから手を入れないといけない」と気がついたタイミングでやってきます。
仕事をいただけるのはとてもありがたいことなのですが、本音では「対話って導入するものだったかな」と感じてしまいます。とはいえ依頼者は深刻で、何か対話を促進する便利なツールやテクニックがあるかのように筆者に期待しているようです。そのような依頼者に、こんな話をします。
これは企業でも、もちろん金融業界でも同じです。金融機関で働く人が地域や社員を心から愛し、信頼し、答えがあろうがなかろうが「地域や未来に何を残していきたいか」という問いを持って同僚やお客さんと語り合うことが、対話を根付かせる要素の9割なのだと思います。
もし、読者が金融機関のマネジメント層の方であれば、まずあなたが、このような問いを職場や地域のコミュニティに投げかけることです。そして、その問いに対しての相手の声に耳を傾けることです。ただ、そう言ってしまうと元も子もありませんから、依頼者の中に「愛」を感じることができれば、組織の中に対話を促すサポートをすることもあります。
対話の促進で大切なことは「話す」ことではない
対話を促進するうえで大切なことは、「話す」ことだと思っている方が多いようです。確かに論理的にわかりやすく話すことはとても大切なことです。しかし、実は対話の本質は「話す」ことよりも「聴く」ことにあります。そのことを体験・体感するために、最近、金融機関の研修などで実施しているワークショップをご紹介しましょう。それは「即興劇ゲーム」といわれるものです。3~5人がチームになって即興で物語を創作するというシンプルなゲームで、オンラインでもリアルに集まる研修のどちらでも実施できます。
まず、ファシリテータがチームの1人を指名して「秋晴れの土曜日の朝、前日までの疲れが残っている私は眠い目をこすり犬の散歩に出かけた」という文章を読んでもらった後、「では、この後に続くストーリーを自由に創作して続けてください」と促します。
その方は、戸惑いつつもちょっと考えて「すると突然、道端で知らない女性が話しかけてきた。その女性は深刻な表情を浮かべていた……」と区切りのいいところまで話しきったら、「次、◯◯さん」といって次に話す人をランダムに指名してもらいます。
指名された方は、それを受けて咄嗟に「え~私は、地球のみなさんに危機をお伝えするために火星からやってきたのです。実は後1時間で、地球が滅びるのです」というように物語をつないでいきます。これを何回も繰り返していくと、物語があらぬ方向へと展開していき、ともに創作しているチームにいい雰囲気の一体感が生まれてきます。
ところが、一体感が生まれず硬い雰囲気のまま、物語が展開しないチームが時々あります。その違いは、チームのメンバーが前の人の話を「傾聴しているかどうか」によって生じます。誰かが次に面白いことを言おうと心の中で準備していたストーリーを話し始めると、逆に脈絡がない展開となって独創的なストーリーにならないばかりか、チームの一体感を阻害してしまうのです。
前の人が話している最中から次に自分が話すことで頭がいっぱいで、ちょっとした笑いはとれたとしても物語がつながっていかないのです。自分の出番が来ようが来まいが、頭を空っぽにして、そこまでつながっているストーリーを全身で傾聴していると、自分の番が回ってきたとき、自分でもハッとするような言葉が突然湧き上がってくるものです。
ここで出てくる言葉は「自分ではなく、場から立ち上がってくる」ものです。そこで創られる物語はメンバーの誰もが用意していたものではないにもかかわらず、そのメンバーが創り出した唯一無二の作品なのです。それは、音楽のセッションから生まれるグルーヴ感や、極限状態のスポーツチームの一体感にも似ています。
【次ページ】「対話」と「議論」の違い
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