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  • 2021/12/07 掲載

トレジャリー業務をDXする「FinOps」はなぜ重要? CitiやJPモルガンが挑むワケ

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銀行APIの解放、BaaS専業銀行の誕生、APIプラットフォームの登場など、フィンテックを巡る動きは、依然として目まぐるしいものがある。その背景には、銀行界がDXを推進するにあたり外部に金融業務を"機能"として提供し、新たなイノベーションを創出しようという動きがみられる。今回はこうした動きの中から、企業のトレジャリー業務自動化を支援するを中心に、その最新動向を解説する。
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企業向けBaaSの潮流とは何か
(Photo/Getty Images)
 

BaaSから組込み型金融への潮流

 ここ数年で、銀行が持つ多様な機能をAPIなどにより提供する「Banking as a Service(BaaS)」はフィンテックの世界で完全に市民権を得て、チェレンジャーバンクだけでなく、多くの伝統的な銀行からもAPIという形で提供されるようになりました。

 現在では、消費者向けのウォレットから高度な投資サービスや融資ソリューションにいたるまで、さまざまな金融機能が提供され、「組込み型金融(Embedded Finance)」と呼ばれる商流組込み型の金融サービスへと進化しています。

 この背景には、欧州決済サービス指令第2版(PSD2)や英国のオープンバンキングスタンダードなどによる後押しだけでなく、銀行界が業界を超えてDXを推進するにあたり外部に金融業務を"機能"として提供することで、新たなイノベーションを創出しようという動きがあります。

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BaaSはEmbedded Finance(組込み型金融)へと続くイネーブラー
(出典:筆者提供)

 BaaSトレンドの到来は、銀行がSaaSプロバイダーとしてビジネスを拡大していくための大きなチャンスです。従来の金融商品の手数料ビジネスから、SaaS型のビジネスモデル、つまり継続課金型のデジタルサービスを展開していくことになります。

今後、BaaSの普及が見込まれるコーポレートバンキング

 BaaSは、主に個人向けのサービスで利用が進んでいます。欧米では「ネオバンク」と呼ばれるフィンテック企業が銀行と組んで行う口座サービスが拡大し、また「Buy Now Pay Later(BNPL)」と呼ばれる後払い決済の領域ではフィンテック企業とオンラインマーチャントが結合し、消費者の支持を集めています。

 そして、フィンテック自体がそうであったように、BaaSも個人向けサービスから商業銀行(コーポレートバンキング)向けのBtoBビジネスへと急速に拡大を続けています。

 「トレジャリーマネジメント(キャッシュマネジメント)」は、コーポレートバンキング領域でBaaSが普及し始めている分野の1つです。企業がキャッシュフローのリアルタイムなモニタリング、運転資金の最適化、マクロ環境の急激な変化への柔軟な対応を目指す中、トレジャリーマネジメントでは、自動化とDXがこれまで以上に必要とされています。

 企業のトレジャリー業務は、資金繰り、流動性、支払い管理、運転資金管理、与信管理、資金調達、財務報告など非常に多岐にわたります。新型コロナウィルスのパンデミックから脱却するにつれ、多くの企業のトレジャリー部門では、過去の手動プロセスから新しい技術や自動化のデジタルソリューションへとシフトし始めています。

 この背景には、リモートワークが拡大してオペレーション自動化の必要性が増したことや、世界中のサプライチェーンが混乱する中、いち早くビジネス環境の変化に耐えうるトレジャリー業務の確立が求められてきたことがあると考えられます。

 こうしたトレジャリー業務の自動化を支援するソリューションは「FinOps(Financial Operations)」とも呼ばれ、フィンテックの中でも急速に進化をしているカテゴリーの1つです。

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トレジャリー業務におけるAs-isとTo-be
(出典:筆者提供)

FinOpsで先行するCiti、JPモルガン

 FinOpsの領域で動きが速いのは、海外の金融機関です。Citiは2016年11月にシティバンク・トレジャリー・アンド・トレード・ソリューションズ(TTS)の一部として、「CitiConnect」というブランド名称でトレジャリーAPIの提供を開始しています。

Citiの「CitiConnect API」を解説した動画
(出典:Citi)

 CitiConnectは83以上のAPIを提供しており、セルフサービスのレポート、リアルタイムのFX情報、明細書、締切時間、支払い証明などの口座サービスがあります。

 Citiの顧客企業は、ERPやトレジャリー管理システムとAPIを接続し、口座残高照会、支払状況レポート、為替レートの要求、為替契約の予約などの機能を自社システムに組み込む(embedded)ことでトレジャリー業務を自動化し、オペレーションコストを削減できます。また、さまざまな情報をリアルタイムに把握することで、キャッシュの動きを最適化できるようになります。

 Citiの公式発表によると、2021年4月時点で、API開設以来、約10億回以上のAPIコールが行われたそうです。そして、Citiの顧客のDXを推進しているだけでなく、SAPやオラクル、キリバ(Kyriba)といった代表的なERPソフトウェアベンダーやクラウド会計 フィンテック企業との接続を増やすなど、APIエコノミーを拡大させています。

 Citi以外にも、たとえばJPモルガン・チェースやウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)、あるいはDBSといったデジタルに力を入れている銀行は、トレジャリーAPIを強化しています。

 ビジネスモデルとしてはSaaSに近く、顧客の開拓だけでなく前述のとおりAPIを組み込めるパートナー企業を拡大し続ける必要があります。つまり、APIビジネス拡大のためには、テック企業のようなアプローチが必要となり、人材面でもSaaSビジネスの経験者を必要とします。

 それでも、上記のようなグローバルバンクがトレジャリーAPIの強化に取り組むのは、そこに潜むビジネス機会が大きいからにほかなりません。

 コーポレートバンキングのAPIビジネスは、顧客企業とのビジネスを拡大させる機会をもたらします。自動化やデータ分析を駆使して、顧客企業と共同で新たなビジネスを構築することも可能でしょう。これらのグローバルバンクはAPIを提供し、「メインバンク」から「ビジネスパートナー」へと転換することで収益を向上させようとしています。

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APIが企業の会計担当者にリアルタイムデータを提供する方法について解説したJPモルガン・チェースのサイト
(出典:J.P. Morgan

【次ページ】BaaS型インハウスバンキング「IHBaaS」とは?
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