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  • 2021/09/14 掲載

熱狂のトークン経済圏はどこへ向かうのか、ICOの功罪とNFTの可能性

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2021年はブロックチェーン関連の技術として、デジタルデータに資産的価値を付与する「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」に注目が集まっている。容易にコピー可能なデジタルデータに唯一無二な価値を付与することで、マーケットプレイスなどでの売買を可能にするものだが、ブロックチェーンが生み出すイノベーションは従来の資金調達や通貨制度にどのような影響を及ぼしていくのか。ブロックチェーン領域の先駆者が、トークン経済圏の可能性をどう見ているのかを語り合った。
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SYNQA 長谷川 潤氏(左上)、Japan Digital Design 河合祐子氏(右上)、One Asia/One Asia Lawyers 森 和孝氏(左下)、FiNANCiE 國光宏尚氏(右下)
本記事は2021年8月9日~11日開催「キリロムグローバルフォーラム 2021夏(主催:vKirirom Japan)」の講演を基に再構成したものです。

ICOには、IRのような枠組みが必要

 冒頭、モデレーターを務めるJapan Digital Design CEOの河合祐子氏からパネルディスカッションの背景について論点が提示された。

 ブロックチェーン技術を活用し、デジタルデータに資産的価値を付与するNFTをはじめ、ブロックチェーンによるトークンは、従来の中央銀行を発行主体とした信用構築・決済システムとしての通貨や、企業の資金調達の手段としての株式に変わる、新たな経済圏を生み出すことが期待される。

 一方、バズワード化したNFTはすでに一次ブームが終わったともいわれる。そこにはどんな問題点があり、その先の「NFT2.0」とも呼ばれる世界にはどんなイノベーションが期待されているのか。



 まず河合氏は、SYNQA 代表取締役の長谷川 潤氏に対し、株式とは異なる資金調達のあり方としてトークンを用いた資金調達の概要や現状について質問した。長谷川氏は、2015年にはイーサリアム財団のボードアドバイザリーとして参画し、ホールディングスカンパニーとしてOmise Holdings(現SYNQA)を設立した。

 同氏は「トークンによる資金調達を初めて行ったのは2016年ごろで、当時はまだICO(Initial Coin Offering)という言葉もなかった」と振り返る。その上で、「ICOをして分かったのは、お金を投資してもらう以上、IPO(Initial Public Offering:新規株式公開)における投資家(株主)と企業の関係と同じだということだ」という。

 ICOはIPOに比べ、自社のみで資金調達を完結でき、設計の自由度が高く、資金調達にかかるスピードやコストを大きく削減できるメリットが指摘される。長谷川氏は「トークンには価格変動性があるので、価値が上がればトークン保有者は喜ぶし、下がればその分、ネガティブな反応も大きい」と話す。

 株式会社であれば、投資の判断に必要な財務状況などの情報を株主に提供するIRなどの活動があるが、「ICOの場合、コミュニティなどを通じてIRの役割を果たす工夫が必要だった」と長谷川氏は述べる。そして、特に情報管理の観点で、ICOは法規制とともに制度として成熟期に入っていくだろうとした。具体的に情報管理の重要性という点では「Twitterでの自分の発言がトークンの価値の上げ下げに関わるとして、法規制機関とのやり取りを経験したことがある」と長谷川氏は話す。

ICOによる資金調達は「9割が失敗」

 一方、「ICOでは失敗と成功の定義が難しい」と述べるのがOne Asia/One Asia Lawyers シンガポールオフィス パートナー弁護士 フィンテック・STOチームヘッドの森 和孝氏だ。森氏は、2009年に司法試験に合格後、シンガポールに移住。One Asia/One Asia Lawyersで、日本の取引所の海外進出などの支援などを手がけている。

 イーサリウムによる資金調達で注目されたICOは、2017年ごろに拡大を見せ、上位3つのプロジェクトでそれぞれ200億円を超える規模の資金を集めたが、「2019年ごろから市場は縮小傾向にある」と森氏は述べる。現実に同氏がサポートしている案件も「9割くらいが失敗している」そうだが、「ICOで集めた資金を使って仮想通貨の開発を行うため、諦めたらそこで失敗するが、なかなか成功と失敗を切り分けることは難しい」のが現状だという。

 一方、成功している案件は仮想通貨のランキングでも上位を占める案件であり、その意味からも「ICOはあくまでも事業のスタート。資金調達後にトークンの価値を高めて上場するための位置づけでしかない」と森氏は話す。

 また、法規制の観点も重要なポイントだ。米国では証券として規制の対象となる定義が幅広く、「誰かの努力に依存して投資家が利益を上げると証券(金融商品)であると認定され、米国証券取引委員会(SEC)から規制の対象と見なされることがある」そうだ。

 その点、ICOは法規制が未整備の部分があり「発行体が容易に資金調達できる側面がある一方、資金調達後に、投資家が規制されるケースもある」ため、発行時にきちんとコンプライアンス対応して案件化しているところがビジネスを継続している側面がある。

 河合氏から「発行時のコンプライアンス対応がICO成功のポイントか」と問われた森氏は、「KYC(Know Your Customer)などの金融犯罪対策をしっかりしておくことは大事」だと述べた上で、スピードが重視な資金調達にコンプライアンス対応の判断を両立するのは容易ではないが、「当局からICO自体にリスクがあると認識されており、特にマネーロンダリング対策が厳しく求められるのは事実だ」と述べた。

 こうした取引規制の厳格化の潮流もあって、ブロックチェーンを用いたDeFi(分散型金融)に注目が集まっている。取引所が間に入って資金調達を行うIEO(Initial Exchange Offering)や、DEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)が間に入って資金調達を行うIDO(Initial DEX Offering)など、「機関投資家をターゲットに公開して資金調達をオファリングする流れが、2017年以降、徐々に広がっている」ということだ。

【次ページ】機関投資家が見る「ICOの功罪」
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