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ペイパル(PayPal)は、業界に都合の良い決済モデルに固執し、顧客の利便をおろそかにしがちであった銀行やクレジットカード企業などに、新たな形のオンライン決済で殴り込みをかけ、フィンテックの発端となった「金融イノベーションの元祖」だ。イーロン・マスクやピーター・ティールなど“ペイパルマフィア”と呼ばれる新興テック企業のリーダーたちをも輩出する「人材の宝庫」でもある。2021年2月には「スーパーアプリ」構想も発表し、今後金融業界を中心にさらなるディスラプションを起こそうと画策している。今後、「決済の裏方」から「決済の中心」に躍り出ることが予測されるペイパルはどのような企業なのか、解説する。
1998年創業、エスクロー制度導入の革新
ペイパルはインターネット黎明期の1998年に創業した。当時急成長中であったeコマースにおいて、クレジットカード情報などの面倒な入力や承認プロセスをあらかじめ登録して自動化することで、決済を簡便化する革命を起こした。同社のWebサイトでは、自社を「デジタル決済のイノベーションに努めてきた米シリコンバレーのフィンテックカンパニー」であると定義している。
初期の特筆すべき革新として、オンラインオークションサイトeBayの子会社であった時代に、エスクロー制度を導入したことが挙げられる。
物の受け渡しと代金の支払いのトラブル防止の目的で第三者が入り、売り主と買い主の双方が確実な物件や商品の受け渡しと支払いを受けられるエスクローの仕組みは米不動産取引でスタンダードとなっていたが、これを、互いに相手が見えないオンライン決済に取り入れたのである。ペイパルの目論見は当たり、買い手側の注文が完了する確率を高め、売り手側には販売増をもたらした。
現在では200以上の国と地域で、100通貨以上での決済、56通貨で銀行口座への入金、25通貨での支払いの受け取りが可能なネット決済の筆頭グローバルスタンダードであり、3億4800万人以上のユーザーおよび2900万以上のマーチャントが世界中で利用している。
イーロン・マスクやYouTube創業者を輩出
ペイパルの核心的なテーマは一貫して「金融サービスの民主化」だ。そのために、「世界中どこへでも、いつでも、どのようなプラットフォーム上であってもお金を動かせる」大きな夢が企業目標となっている。これを達成する手段として、主にデジタル取引を好む若年層に特化されたPayPal、Venmo、Xoomブランドを使い、あらゆるオペレーティングシステムのあらゆるデバイスで個人相互の迅速なP2P 送金や支払いができることを目指している。
新型コロナウイルスによるeコマースの盛り上がりという追い風もあり、2020年の決済取引は前年比25%増の154億件、決済取引総額は31%伸びて9360億ドル(約103兆3419億円)と、1兆ドル超えが間近に迫った。また、売上も2019年の177億7200万ドルから2020年には214億5400万ドルへと飛躍、当期純利益も24億5900万ドルから42億200万ドルに増加、「もうかる企業」に成長している。
特に、ユーザー数が急増した傘下Venmo事業において、7月20日からマーチャントが支払う手数料を従来の無償から、支払額の1.9%プラス10セントへと有償化し、増益への道筋を明確にしたことは、投資家に評判が良かった。加えて、本業のPayPalにおいても手数料を支払額の2.9%+30セントから、3.49%+49セントへ引き上げるなど、顧客ベースの拡大による加盟店への強い立場を利用した収益向上策を実施している。
このように、ペイパルが提供するプラットフォームの利便性にひかれた億単位の消費者、彼らにモノやサービスを売りたい多くのマーチャントが利用をすることにより、売り手と買い手を仲介する第三者のペイパルには各種の手数料収入が入る。
それだけではない。ペイパルには決済データや顧客属性データが蓄積される。同社はこうした膨大なユーザーのショッピング履歴やマーチャント売上情報を基に、あらゆる金融取引に介在することで、ワンストップの利便性を提供する「スーパーアプリ」を構想しており、それによってフィンテックの最終覇者になるという大胆な目標を掲げている。
このような世界規模の大きな夢、テクノロジーの先見性と大胆さこそがペイパルのDNAであり、数々の創業者を輩出している。世界級の起業家であるイーロン・マスクやピーター・ティール、独自のアルゴリズムで分割後払い決済を提供するAffirmを創業したマックス・レブチン、世界最大級のビジネス特化型SNSであるLinkedInを創業したリード・ホフマン、世界最大規級の口コミサイトYelpを立ち上げたジェレミー・ストップルマン、知らぬ人はいない世界最大の動画共有サービスYouTubeの共同創業者であるチャド・ハーリーなど、錚々たる顔ぶれの「ゆりかご」となったのだ。
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