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  • 2021/01/27 掲載

一橋大 野間幹晴教授に聞く、コロナ禍で拡大した「企業価値格差」の考え方

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コロナ禍により人々の生活スタイルが一変し、企業を取り巻く市場環境も大きく様変わりした。こうした変化に対応し、これから訪れる「ニューノーマル時代」において企業が価値を高めていくためには、一体どのような形でデジタル技術を経営に生かしていくべきなのか。経営とデジタルの関係に詳しい一橋大学大学院 野間 幹晴教授とAI(人工知能)研究者であり企業経営や一橋大学での講師も担う松田 雄馬氏に話を聞いた。
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

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野間 幹晴 氏
一橋大学大学院経営管理研究科教授。2002年、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)取得。2002年4月から横浜市立大学商学部専任講師。04年10月から一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、准教授を経て19年4月より現職。10年より11年までコロンビア大学ビジネススクール・フルブライト研究員。現在、経済産業省「企業報告ラボ」座長、バンダイナムコホールディングス社外取締役、ナイス社外監査役、ダーウィン・キャピタル・パートナーズ社外監査役、キーストーンパートナース社外投資委員。

コロナ禍で企業価値はどのように変わったか

 一橋大学大学院で企業価値評価や企業変革、財務会計などの研究および教育に従事する野間 幹晴教授は、コロナ禍以降、デジタル化をこれまで着々と進めてきた企業とそうでない企業との間で、株式市場における評価が明確に分かれつつある現状を次のように述べる。

「メガバンクはコロナ禍以降、PBR(株価純資産倍率)が約0.7から0.3~0.4程度にまで急落していました。このことは、メガバンクはコロナ禍以降の環境変化に対応できないだろうと投資家が評価していることを意味しています。一方、デジタル技術を活用することで株式市場から高く評価され、すでにコロナ禍以前の株価を上回っている企業も存在します」(野間氏)

 そうした企業の一例として、野間氏は丸亀製麺の運営で広く知られるトリドールを挙げる。同社はコロナ禍による影響を最も受けた外食産業であるにもかかわらず、コロナ禍以前からデジタル技術を活用した企業変革に積極的に取り組んでいる。株式市場から高い評価を受けているほか、戦略の独自性を評価するポーター賞を受賞した。

 コロナ禍以降に業績を伸ばしたその他の企業に目を転じると、ITのインフラ製品・サービスを提供するIT企業やメーカーが多く名を連ねる。コロナ禍に伴い多くの企業が一斉にリモートワークを導入した結果、Web会議やチャットツール、ネットワーク機器などのIT製品・サービスの売り上げが一気に伸び、中には過去最高の増益を果たしたIT企業も出てきた。

 しかしその一方で、合同会社アイキュベータ代表の松田雄馬氏は、こうした傾向は一時的なものであり、企業価値を向上させるための本質的なIT投資とは性格を異にするものだと指摘する。

「どの企業もリモートワーク導入に伴う緊急措置的なITインフラ投資は進めていますが、本質的なIT投資が進展しているかというと、そうとも言い切れません。デジタルトランスフォーメーション(DX)が提唱するような、AIやデータ分析を活用して新たな価値を生み出すようなIT投資には、依然として多くの企業が二の足を踏んでいるのが現状です」

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松田 雄馬氏
1982年生まれ、大阪出身。博士(工学)。京都大学大学院修了。NEC中央研究所員としてのMITメディアラボ・ハチソン香港・東京大学との共同研究を経て、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトにおける基礎研究・社会実装で博士号取得。独立して合同会社アイキュベータを設立、現在、共同代表。一橋大学大学院非常勤講師。AI/IoTを中心に研究開発と情報発信を行う。

「テクノロジー導入の目的化」がDX頓挫の主要因

 DXのような、いわゆる「攻めのIT投資」に企業がなかなか踏み出せない理由として、松田氏はコロナ禍による混乱や予算の制約とともに、「テクノロジー導入の目的化」を挙げる。

「たとえばAIにしても、多くの企業が『AIを使って業績を上げられるのではないか』とこぞってテクノロジーの調査や評価に乗り出しましたが、結局のところAIの導入自体が目標になってしまいました。『そもそも何を実現するためにAIを活用するのか』という本来の目的があいまいなまま技術の導入を進めていった結果、頓挫してしまうケースが散見されます」(松田氏)

 本格的にAIを活用するとなると、社内の各部署に散在するデータを集約するためのデータドリブンな組織作りが欠かせない。しかしこれは全社的な大掛かりな取り組みになるため、目的が明確化されていないとどうしても推進力を失いやすい。このハードルを乗り越えるには、「まずはスモールスタートすることで小さな成功事例を作り、徐々に社内のステークホルダーを巻き込んでいくのが王道です」と松田氏は提言する。

 前出のトリドールは、こうしたハードルを乗り越えて、全社的にデータ活用の文化を根付かせることに成功した例だといえる。同社が成功した理由について、野間氏は「データ利用の目的が明確だからだ」と説明する。

「丸亀製麺はうどんチェーンでありながら、セントラルキッチンを使わず、各店舗でうどんを打ちます。うどんを茹でるのには15分ほどかかりますが、顧客は注文してから数分で食べられます。各店舗で収集したデータを分析し、店舗ごとの来店者数を予測することで、顧客が注文するよりも前にゆで始めることによって、可能になります。これにより、オーダーしてすぐに顧客はうどんを食べることができますし、回転率も上昇します。丸亀製麺が来店者数予測というデータ分析を行うのは、顧客満足度を高めるという明確な目標があります」(野間氏)

 加えて、各店舗では地元で雇用したパート店員を多く雇用しており、パートの口コミを通じて地元のイベントをはじめとするさまざまなローカル情報を収集している。これらの情報をデータ分析に加味することで、より精度の高い予測を実現している。こうした「特定の事業ドメイン(領域)に特化した情報」の重要性について、松田氏は次のように述べる。

「たとえば、データサイエンティストが工場やプラントの設備の異常予測を行う場合も、単にデータ分析技術を駆使するだけでなく、現場で長く働いているベテラン作業員がこれまで培ってきたノウハウについて必ずヒアリングします。まずはノウハウを知ったうえで、データ上にどのように反映されているのか、その法則を発見できれば、ベテラン作業員の分析能力のシステムによる支援や代替につながります」(松田氏)

 松田氏は、「事業ドメインの知識に基づく現場感覚をデータサイエンティストが吸収し、データ分析技術と掛け合わせることで高精度な異常検知が可能になる」と説明した。

【次ページ】デジタル化が進むほどアナログチャネルの重要性も増す
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