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- 2020/01/15 掲載
日本IBM 加藤洋 専務に聞く、金融機関が既存資産を生かしつつデジタル競争に勝つ方法
FinTech Journal創刊記念インタビュー
金融機関が「2025年の崖」を越えるための施策
本格化するデジタル時代を迎えるにあたって、大きな関心を集めているのが、2018年9月に経済産業省が公開した「DX(デジタル・トランスフォーメーション)レポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」です。このレポートでは、既存システムの硬直性やIT人材不足、そしてセキュリティリスクの増大などにより、2025年以降、最大で年間に12兆円の経済損失が見込まれる「2025年の崖」を指摘しています。
金融機関が「2025年の崖」を乗り越えるためには、「コスト構造改革」、「ビジネスモデル変革」、「技術革新への対応」を、並行して進めていくことが重要だと考えています。
コスト構造改革の観点では、既存領域の維持・運用コストがかかっている中、デジタルエリアに十分なリソース(人材、予算)が向けられていません。この状況を打開するためには、業務プロセスの効率化・省力化、そして既存システムのスリム化を進め、コストと人材配置を最適化する必要があります。
また、これまでのような預貸ビジネスを中心としたビジネスモデルではなく、AIなどの最新技術を活用し、顧客ニーズを先回りした提案による、新たな価値を提供するフィー(サービス)ビジネスの拡大を図るといったビジネスモデル変革が求められています。
そして、技術革新への対応です。特にテクノロジーやツールを使いこなせるデジタル人材の育成が大きなポイントとなります。AIやブロックチェーンといった新技術を活用することで、新しい金融サービスが生まれ、さらにはデータの有効活用による非金融サービスなど、新たなビジネスチャンスが生まれてきます。
金融業界のDXを実現する3つのステップ
「2025年の崖」を越えるには、DXが必須です。しかし、DXは一朝一夕に実現できるわけではありません。日本IBMでは、金融業界のDXの実現には3つのステップで段階的に進めていくことが有効であると考えています。まず、「既存のビジネスプロセスのデジタル化」です。デジタル技術を活用した営業店改革が一例です。受付タブレットや行員タブレットを活用し、伝票レス、事務処理レスやバックオフィス業務の自動化、データの集中管理が可能になるなどのメリットがあります。
これは先に述べたコスト構造改革にもつながる施策です。これを実現しコスト構造を最適化できれば、次のステップである、新金融サービスに必要となるリソースを確保することができます。
次の段階は「新金融サービスの創出」です。デジタル技術を活用して、従来とは異なる顧客層やニーズに対応する新しい金融サービスを展開します。
たとえばお客さまが保有する株式銘柄に対して、市場変動要因を加味し、AIによってお客さまごとにパーソナライズ化されたレポートを提供するサービスが挙げられます。
金利の動向予測などから、現在保有している銘柄にリスクが生じた際、お客さまのポートフォリオの見直しを自動的にアドバイスすると同時に、営業担当者とも同じ情報を共有することで、営業担当者は効率的にお客さまにアプローチし、適切なアドバイスをすることが可能になります。
最後のステップが「非金融サービスの創出」です。非金融サービスは、他業種と連携してエコシステムを構築し、金融を超えた商品・サービスを提供します。
金融機関が持つ情報や他の事業者から収集した個人データを第三者に提供する事業モデルが一例です。預かったデータを第三者に提供し、得た便益を個人に還元するというスキームです。便益が個人だけでなく、社会全体に還元されるケースも考えられます。
このスキームでは金融機関は「情報銀行」としてパーソナルデータを安全に守る役割を担います。こういった「情報銀行」の役割は、新薬開発に医療データを提供するなど、データ取引の仲介役としてニーズが高まっていくのではないかと考えています。
【次ページ】既存システムを生かしながら攻めに転じる
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