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- 2019/11/18 掲載
FINOLAB所長に聞く、世界中の金融機関が「量子コンピューター」に投資するワケ
FinTech Journal創刊記念インタビュー
前編はこちら(※この記事は後編です)
フィンテックトレンドの風向きが変わったワケ
ここ数カ月でフィンテックトレンドの風向きが変わってきたと感じます。海外の金融イベントの中でも一番の老舗ブランドであり、金融関連スタートアップの登竜門として世界中で開催されるFinovateを2010年から見てきた中での感想です。この2月にロンドンで開催されたFinovateは、スタートアップ企業のフォーカスがかなり金融機関に向けたBtoB向けの製品やサービスにシフトしています。
2018年にもこの傾向はあったものの、より強まった印象です。というのも、5~6年前は、どちらかというと決済を中心に、「消費者が抱えるペインポイント(悩みの種)を解消しよう」という、製品やサービスが中心だったのです。既存の金融機関にディスラプター(破壊的サービスの提供者)として対峙し、新しいサービスでマーケットを開拓しようというものが大半でした。
それが、だんだん彼らの立ち位置がイネイブラー(サービスを成立させるための機能や仕組みの提供者)に変わり、既存の金融機関や金融サービスをより便利にし、一緒に付加価値を作ろうというアプローチになってきました。
結果として、エンドユーザーのみならず、金融機関のデジタルトランスフォーメーションのニーズを叶えるBtoB向けサービスが増えたのです。
具体的には、金融機関での事務プロセスや顧客対応をAIやRPAで効率化するサービス群である、「チャット」「データ分析」などです。
こうしたサービスはすでにリテール分野などでは導入が進んでおり、目新しい印象はないかもしれません。しかし、金融分野で法人向けにこれらを実現しようとすると、金融ならではの専門性、ユーザーインターフェースやユーザー体験(UI/UX)を高めるためのデザイン性などが必要で一筋縄ではいかないのです。それがようやくいくつかの要素をうまく組み合わせて製品やサービスになるという動きが出てきた印象です。
金融BtoB領域で進化したRPAやチャットサービスの特徴をさらに挙げると、「はっきりと事務プロセスを可視化して、進捗がわかるようになる」点です。「あなたの処理はどのように進んでいて、この先はこうなる」といった可視化のサービスは、コロンブスの卵的でも非常に多くの参加者が興味を示していました。
マーケティング分野では、機械学習などAIを使って、BtoBでも相手がどう反応したかといった結果を取り込んで学習させ、常にレコメンデーションエンジンを向上させるような仕組みが実装され始めています。金融領域のBtoBマーケティングでは、情報は「送りっぱなし」という一過性のものという傾向が強かったので、これを是正するツールが注目されていました。
スマートフォンは金融にどのような影響を与えたか
たとえば、中国ではQRコード決済が広がりましたが、ヨーロッパではキャッシュレスというとクレジットカードや電子マネーで使われているNFC(Near Field Communication)がフォーカスされています。NFCが根強いのは日本でも同様です。
QRコードについては多くの報道を見聞きします。中国ではユーザーのデータが特定の拠点に集中し、それを政府がモニターしている点や、セキュリティ対策をきちんと講じないと痛い目に遭うという点がクローズアップされることが多い印象です。セキュリティ面の問題は日本でも大きな事件が起こったことが記憶に新しいでしょう。
日本でもQRコードでのキャッシュレスサービスを各社が展開し、NFCとともに共存していますが、どちらの技術が先進的であるとは単純にいえないと思います。どちらの技術もポイントは、「利便性とセキュリティのバランス」です。
日本の金融サービスは、セキュリティや正確性を担保する代わりに、やや使い勝手が悪い、処理スピードが遅いなどと言われてきましたが、スマホアプリの領域ではそれは許されません。大きなポイントは「使い勝手」です。この「バランス」はこれからも深淵なイシューであり続けるでしょう。
【次ページ】量子コンピューターに注目する理由
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