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- 2019/08/27 掲載
クラウドレス、メモリ主導型、ブロックチェーン……フィンテックを支える技術の今と未来
FinTech Journal創刊記念インタビュー
既存の銀行が抱えるDX時代に直面した課題
現在、金融業界は大きな変革の真っ只中にある。その原動力となっているのが、ファイナンスとテクノロジーを融合した「フィンテック」だ。高い技術力やアイデアを持ったスタートアップやIT企業などが新たに金融市場に参入するなど、業界再編の動きも加速している。HPEの岡本氏は、「大規模な金融機関の、特に経営層は非常に危機感を募らせていると感じます。新興企業であれば、何事にもゼロベースで臨めるため、新サービスの提供スピードが速いのですが、一方で既存の金融機関は店舗やATM、システムなど、さまざまな資産を抱えているため、動くに動けないのです」と業界の現状を説明する。
金融の中でも、細かな業界ごとにデジタルの流れに対する受け止め方は異なる。銀行は特に危機感が強い業種だが、一方でクレジットカード会社などはキャッシュレスが進んでいけば、トランザクションが増えていくため、信頼性や耐障害性に対する意識が高いという。
Pointnext事業統括 トランスフォーメーションコンサルティング 統括本部 本部長、庄野雅司氏は、「その中でもフィンテックに取り組む金融機関は多いのですが、それを加速させているテクノロジー要素としては、AI(人工知能)やそのベースとなるデータ活用に関連するテクノロジー。そしてそれらのテクノロジーを効果的に展開もしくは活用することを可能とするためのオープンAPIなどが挙げられます。たとえば、業界の垣根を超えたサービスを提供するためには、オープンAPIの技術が必要不可欠です」と語る。
エンドユーザー(=顧客)は、特定の企業のサービスではなく、さまざまな企業のサービスがつながったエコシステムが充実しているところを選ぶようになってきた。スタートアップを含めたサービス提供側がより多くのユーザーとつながるためにオープンAPIの重要性は今後さらに増していく。
こうしたテクノロジーの登場に伴って、それを支えるシステムに求められる要件も変化している。中でもクラウドを活用する動きは本格化している。
ハイブリッドIT事業統括 セールスエンジニア統括本部 インダストリー技術本部 第一技術部 部長 柏 龍一郎氏は、「クラウド活用の対象分野としては、スマートフォンアプリが非常に多いです。スマホが出てきたことで、アプリケーションを支えるIT基盤の考え方は大きく変わったと思います」と指摘する。
「一方で、ミッションクリティカルな領域にはそれに相応しいシステムでしっかりと信頼性を確保しなければなりません。そのうえで、クラウドの迅速さやアジャイル開発を可能とする環境をミックスしていくことが、今、最も求められていることではないでしょうか」と続ける。
一口に同じ金融機関向けのシステムと言っても、ミッションクリティカルシステムとコンシューマー向けサービスとでは求められるものがまったく異なる。しかし、これらシステムを上手につなげて、ミックスしていかなければ新サービスは生まれない。この点は現在のテクノロジーの課題ともいえるだろう。
今後は「クラウドレス」の時代が到来する
クラウド活用が当たり前になる中で、少なくとも現在のテクノロジーではパブリッククラウドのみで金融機関向けシステムをすべて成り立たせることはできない。なぜなら、現状の金融サービスを維持するための「信頼性」「可用性」「保守性」「保全性」「安全性」といった要件のすべてを満たせるわけではないからだ。となれば、クラウドとオンプレミスを併用するハイブリッドIT構成が必要となるが、どこまでをオンプレミスに任せるべきかという線引きについては金融機関としてのビジネス的な判断が求められる。
「特にテーマになるのがデータをどこに保存するべきか、ということです。クラウドサービスの中には、自社が求めるSLA(サービスレベル合意)が担保されていないケースも少なくありません。その足りない部分は自分たちで補わなければなりませんが、その構築や運用において多大なコストがかかる面もあるのです」(柏氏)
こうした金融の課題に対して、HPEでは「Cloud Enabled」「Data Driven」の2つを事業戦略に掲げて取り組んでいる。
Cloud Enabledとは、オンプレミス/クラウドに限らず、あらゆる環境にクラウドと同じ体験を提供するという同社のコンセプトだ。
岡本氏は「クラウドはもはや“場所“ではなく“体験“だという方がいますが、我々もまったく同じ考えです。当社のCEOを務めるアントニオ・ネリは“クラウドレス”という表現を使っています。今後はクラウド間の垣根が“見えない”“意識されない”世界になるというビジョンです」と説明する。
これを裏付けるようにオンプレミス上でも“消費型IT”を実現する「HPE GreenLake」も提供。オンプレのシステムながら、消費した分だけ課金されるモデルを確立しつつ、スケーラビリティやフレキシビリティも兼ね備える課金形態で提供している。
【次ページ】新形態のコンピューティング「メモリ主導型コンピューティング」とは
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