• 会員限定
  • 2023/09/08 掲載

令和5事務年度金融行政方針を読み解く、「デジタル」「経済安全保障」へ必要な対応は?

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
8月29日、令和5事務年度の金融行政方針が公表された。例年通り、2大トピックとして「サイバーセキュリティ」「AML/CFT」の高度化が掲げられるも、当初想定されていた「経済安全保障」にほぼ触れられていないのが驚きであった。サイバーセキュリティとAML/CFTについては別に解説することとし、本稿では、その他の重要課題に加え、経済安全保障の言及が薄い背景について解説したい。

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

93年早稲田大学卒後、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。金融派生商品のプライシングシステムの企画などに従事。大蔵省大臣官房総合政策課でマクロ経済分析を担当した後、2006年からNTTデータ経営研究所。経営コンサルタントとして金融政策の調査・分析に従事するほか、自治体の政策アドバイザーを務めるなど、地域公共政策も担う。著書に「金融機関のためのサイバーセキュリティとBCPの実務」「AIが変える2025年の銀行業務」など。飯能信用金庫非常勤監事。東工大CUMOTサイバーセキュリティ経営戦略コース講師。宮崎県都城市市政活性化アドバイザー。

photo
令和5事務年度金融行政方針を読み解く
(Photo:TK Kurikawa / Shutterstock.com)

令和5事務年度金融行政方針の全体像とは?

 4章構成からなる金融行政方針において、今さらながら言及されているのが第Ⅲ章の「法令等の順守の徹底」を金融機関に求めている点だ。

 従来は、新たに金融サービスを提供しはじめた資金決済事業者や暗号資産交換業の健全化対応を念頭においた書きぶりであったものの、地銀における仕組債の販売実態で新たに法令上の不備が認識されたことに加え、金融行政方針編纂中にビッグモーターの不正事案が重なり、今回はすべての金融機関を念頭においた警鐘となっているのがポイントだ。

画像
図1:2023事務年度 金融行政方針
(出典:金融庁2023事務年度 金融行政方針

 また、サステナブルファイナンスについて、直近でインパクト投資の検討会の結果を公表したこともあり、相応の紙幅を割いている。金融庁では今後、インパクト投資における「目標指標」の設定事例やベストプラクティスといったものを公表することを想定しているようだ。そこで重要となるのが、単なる金融機関の収益目標ではない「目標指標」の設定手法だ。

インパクト投資の推進における地域実態の把握と目標設定

 金融庁は、令和4年10月に「インパクト投資等に関する検討会」を設置し、有識者を中心に内外での事例研究と、インパクト投資に求められるあるべき姿の要件を固める検討を進めてきた。その中で今般、金融機関や投資家がインパクト投資などの取り組みを行う際に有用な実務的な留意点などからなる「基本的指針」(案)が示された。

 サステナブルな社会に向け、環境や社会全般に与える効果を「インパクト」と呼んでおり、これを投資的活動で支えるのが「インパクト投資」だ。

 ただし、欧米に比して日本におけるインパクト投資の残高は少なく、ESG投資やサステナブルファイナンス、といった投資手法との差異も理解されにくい状況にあった。こうした認識課題を背景に金融庁は基本的指針において、インパクト投資を「サステナブルファイナンスの1分野」として明確に位置付けたうえで、4つの構成要件を示している。

基本的指針におけるインパクト投資の4要件

<要件1>実現を「意図」する「社会・環境的効果」や「収益性」が明確であること(intentionality)

<要件2>投資の実施により、追加的な効果が見込まれること(additionality)

<要件3>効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification / measurement / management)

<要件4>市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性等を支援すること(innovation/transformation/acceleration)

 従来、金融機関が手掛けてきたインパクト投資では、地域の実情を必ずしも反映しきれておらず、単にファイナンスの「一類型」として位置付けられてきたともいえる。そこで金融庁では、地域の実情を子細に把握したうえで、地域のステークホルダーと協議した具体的な目標を掲げ、これを実現する手段としてインパクト投資を位置付けることを要請している。

 たとえば、少子高齢化が進展し、将来世代を担う若年人口が減りつつある、といった地域社会の問題意識を念頭に、この解決を主眼に事業をなす事業体や事業者を投資的活動で地域金融機関が支援する場面を想定する。

 今後金融機関・投資家は、こうした課題解決を担う自治体や事業者に対して資金を投じる際、明確に解決すべき課題とその達成水準(KGI)を双方で協議のうえ決定し、中間指標となるKPIを事業年度毎に点検・評価しつつ、投資対効果を「双方で」定量的に推し量る必要がある。

 さらに、金融機関がインパクト投資を手掛ける際には、事前に地方公共団体が公表する総合計画を精査することが必要だろう。総合計画には、諸々の地域課題に対応する具体的な事業・施策とともにその達成水準が事業年度単位でKPIとして、最終目標としてKGIが定義されている。

 インパクト投資における達成目標の定量的捕捉には、こうした地域の共通指標を拠り所として活用することが有効となろう。 【次ページ】金融行政方針が示す「デジタル」「経済安全保障」へ必要な対応は?

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます