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- 2023/09/08 掲載
令和5事務年度金融行政方針を読み解く、「デジタル」「経済安全保障」へ必要な対応は?
令和5事務年度金融行政方針の全体像とは?
4章構成からなる金融行政方針において、今さらながら言及されているのが第Ⅲ章の「法令等の順守の徹底」を金融機関に求めている点だ。従来は、新たに金融サービスを提供しはじめた資金決済事業者や暗号資産交換業の健全化対応を念頭においた書きぶりであったものの、地銀における仕組債の販売実態で新たに法令上の不備が認識されたことに加え、金融行政方針編纂中にビッグモーターの不正事案が重なり、今回はすべての金融機関を念頭においた警鐘となっているのがポイントだ。
また、サステナブルファイナンスについて、直近でインパクト投資の検討会の結果を公表したこともあり、相応の紙幅を割いている。金融庁では今後、インパクト投資における「目標指標」の設定事例やベストプラクティスといったものを公表することを想定しているようだ。そこで重要となるのが、単なる金融機関の収益目標ではない「目標指標」の設定手法だ。
インパクト投資の推進における地域実態の把握と目標設定
金融庁は、令和4年10月に「インパクト投資等に関する検討会」を設置し、有識者を中心に内外での事例研究と、インパクト投資に求められるあるべき姿の要件を固める検討を進めてきた。その中で今般、金融機関や投資家がインパクト投資などの取り組みを行う際に有用な実務的な留意点などからなる「基本的指針」(案)が示された。サステナブルな社会に向け、環境や社会全般に与える効果を「インパクト」と呼んでおり、これを投資的活動で支えるのが「インパクト投資」だ。
ただし、欧米に比して日本におけるインパクト投資の残高は少なく、ESG投資やサステナブルファイナンス、といった投資手法との差異も理解されにくい状況にあった。こうした認識課題を背景に金融庁は基本的指針において、インパクト投資を「サステナブルファイナンスの1分野」として明確に位置付けたうえで、4つの構成要件を示している。
<要件1>実現を「意図」する「社会・環境的効果」や「収益性」が明確であること(intentionality)
<要件2>投資の実施により、追加的な効果が見込まれること(additionality)
<要件3>効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification / measurement / management)
<要件4>市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性等を支援すること(innovation/transformation/acceleration)
従来、金融機関が手掛けてきたインパクト投資では、地域の実情を必ずしも反映しきれておらず、単にファイナンスの「一類型」として位置付けられてきたともいえる。そこで金融庁では、地域の実情を子細に把握したうえで、地域のステークホルダーと協議した具体的な目標を掲げ、これを実現する手段としてインパクト投資を位置付けることを要請している。
たとえば、少子高齢化が進展し、将来世代を担う若年人口が減りつつある、といった地域社会の問題意識を念頭に、この解決を主眼に事業をなす事業体や事業者を投資的活動で地域金融機関が支援する場面を想定する。
今後金融機関・投資家は、こうした課題解決を担う自治体や事業者に対して資金を投じる際、明確に解決すべき課題とその達成水準(KGI)を双方で協議のうえ決定し、中間指標となるKPIを事業年度毎に点検・評価しつつ、投資対効果を「双方で」定量的に推し量る必要がある。
さらに、金融機関がインパクト投資を手掛ける際には、事前に地方公共団体が公表する総合計画を精査することが必要だろう。総合計画には、諸々の地域課題に対応する具体的な事業・施策とともにその達成水準が事業年度単位でKPIとして、最終目標としてKGIが定義されている。
インパクト投資における達成目標の定量的捕捉には、こうした地域の共通指標を拠り所として活用することが有効となろう。 【次ページ】金融行政方針が示す「デジタル」「経済安全保障」へ必要な対応は?
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