• 2024/11/01 掲載

自給率よりよっぽどヤバい「肥料不足」、埼玉県に聞いた「下水汚泥」の可能性(2/3)

「インフレ時代の農業」

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なぜ「下水汚泥」が肥料として役立つのか?

 下水汚泥には、肥料の三大要素である窒素、リン酸、カリの1つ、リン酸が豊富に含まれ、その含有量は12万トン近くになると見積もられている。年間を通じて一定の量が発生し安定して確保しやすい。下水道事業という主となる業務の副産物として生じるため、安価に調達しやすい。

 だが現実には、肥料などとして使われる下水汚泥は、全体の14%の32万トン(2022年度、国交省調べ)にとどまる。

 汚泥を原料とする肥料を流通させやすくするため、農水省は新しい肥料の規格「菌体りん酸肥料」を2023年10月に作った。

 下水汚泥を原料とする既存の規格「汚泥肥料」は、ほかの肥料と混合して販売することができなかった。さらに「汚泥」の字面が悪く、敬遠されやすいという悩みもあった。

 新たに菌体りん酸肥料が加わったことで、これを原料に肥料を作る場合、汚泥の表記が消えることになる。菌体りん酸肥料は成分の含有量が保証されていて、肥料の原料として混合できる。

 行政としては初めて、この規格の肥料を登録したのが、埼玉県だ。

 埼玉県では年間約50万トンの下水汚泥が発生する。その90%を焼却して灰にした上でセメントや軽量骨材(コンクリートやモルタルを作るため、セメントや水と混ぜる砂や砕石といった材料)の原料にしてきた。残り10%は固形燃料にしている。肥料としての利用は、ゼロだった。

 下水汚泥を肥料にする機運が高まり、同県も検討を始めた。同県は9つの下水処理場を持つ。小規模で焼却炉を持たない処理場では、水分を搾った脱水汚泥を堆肥にすることも検討している。

 埼玉県下水道局下水道事業課管理運営担当の井村 俊彦氏はこう説明する。

「県の北部になると、人口密度が低くなってきて、1日当たりに処理する下水の量が少ない分、下水汚泥の発生量も少なくなります。下水汚泥は基本的に焼却していますが、焼却炉をそれぞれの処理場に持たせると、逆にコストが高くなってしまうので、脱水した汚泥をトラックに積んで、焼却炉のある処理場まで運んで燃やしています。運搬コストも発生しているので、各処理場で行えるというと、コンポスト化(たい肥化)が1つのやり方ではないか」(井村氏)

 ただし堆肥は需要が限られる。焼却炉を持つ大規模な下水処理場には、膨大な汚泥を貯蔵して堆肥にするだけの空間もない。容積を小さくする「減容化」においては、焼却が最も優れている。焼却灰にすれば、1日でわずか2%に減容できるが、堆肥だと1カ月以上かかって20%までしか減らない。

 そこで、焼却灰をそのまま肥料にすることにした。リン酸が24.3%と高濃度に含まれることから、「荒川クマムシくん1号」として菌体りん酸肥料に登録した。

 同県は、サーキュラーエコノミー(循環経済)に力を入れている。これは、資源の効率的、循環的な利用を図る経済活動を指す。大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした高度経済成長以降の社会のあり方を反省し、資源の消費を減らしつつ、廃棄物の発生を最小に抑えることを目指す。

 大野 元裕知事は、肥料の製造について「サーキュラーエコノミーの中の大きな1つの柱になってくれればと期待している」と24年4月の記者会見で表明した。

「国内最大級」下水処理場での肥料製造

 菌体りん酸肥料の製造現場は、同県戸田市にある荒川水循環センターだ。戸建てやアパートなどがひしめく住宅地を抜けた先に、30ヘクタールの広大な敷地が広がる。水処理施設の一部を覆う形で施設の上部に3.2ヘクタール分の緑地を整備し、「荒川水循環センター上部公園」として住民に開放している。

 東京湾に注ぐ荒川の左岸に位置するここは、1966年に事業に着手し、72年に稼働を始めた。さいたま、川口、上尾、蕨、戸田の5市から下水を受け入れる。

 1日に処理する下水の量は、日本最大の東京都森ヶ崎水再生センターに継ぐ2位。晴天だと1日に約62万立方メートル、25メートルプールに換算して約1900杯分を処理する。12時間かけて下水を処理し、処理水として放出する。24時間365日休みなく稼働しており、約180人が勤務する。

 国内最大級の規模を誇る理由を、下水道局下水道事業課長の水橋 正典氏が説明してくれた。

「下水は基本的に自然の勾配も利用しながら下流へと流れていって、最終的に処理場に流れ着きます。山などの地形上の起伏があると、どうしても超えられないので、地形的に平たんであればあるほど、より広いエリアをカバーできます。その点、埼玉県は南東部を中心に平野が広がっているので、広い範囲から下水を集めやすいです。スケールメリットを働かせて下水処理を安く効率的にしようと目指してきたところがあります」(水橋氏) 【次ページ】灰がそのまま肥料になるワケ
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