0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の金融市場にさまざまな形で混乱をもたらした。西側諸国をはじめとする世界各国がロシアの銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、外貨準備も凍結するという経済制裁を科したことで、ロシア株式と通貨ルーブルは急落。モスクワ証券取引所も取引停止を余儀なくされた。ロシア金融市場への事実上のアクセス遮断は、日本で展開されている関連の投資信託にも直接的・間接的に現在進行形で影響を及ぼしている。ここでは、ウクライナ危機の影響についてまとめて解説する。
ロシア関連資産の流動性は急低下、その影響とは
先述した通り、ロシア市場へのアクセスが遮断されたことで、ロシアに関連する資産の流動性は急激に低下している。
金融市場における流動性とは、「交換のしやすさ」であり、「買いたい時に買えて、売りたい時に売れるかどうか」を表した言葉だ。市場に出回る量が多く、買いやすい(売りやすい)状態のことを「流動性が高い」と表現し、反対に、市場に出回る量が少なく、買いにくい(売りにくい)状態のことは「流動性が低い」と表現する。
今回、関連資産の流動性が極端に悪化したことにより、投資信託の運用会社各社は、ロシアの株式や債券、通貨を投資対象に含む投資信託について、積み立て投資を含む新規の買い付けだけでなく、解約も停止するという対応を迫られた。
投資家の立場からすると、基準価額が下がり続けていても解約できず、自分の資産が事実上「凍結」された状態となるので、解約の停止は決して歓迎できるものではない。しかし、運用会社としては致し方ない対応でもある。それはなぜか。
ロシア関連投信、「解約」できなくなった理由とは
公募投資信託を運用する運用会社には、原則としてすべての投資家を公平に扱う義務がある。
たとえば、10億円の運用資産がある投資信託Aの保有者の内訳が、5億円分保有する超大口投資家1人(以下、Bさん)と、1,000円分だけ保有する投資家(以下、1,000円投資家)が50万人だったとする。
仮に、このBさんと50万人の「1,000円投資家」が同日に解約を申し出た場合、運用会社は、すべての投資家に同じタイミングで解約資金を用意する必要がある。「Bさんは後回しにして、「まずは1,000円投資家の10万人だけを優先して…」ということはできないのだ。したがって、運用会社が投資信託内で保有する株式や債券を売却できない可能性があると判断した場合は、解約に制限をかけるのだ。
今回のように、解約まで制限されるのは極めて珍しいことではあるが、これが流動性リスクを負うということの裏返しでもある。
ロシア関連投信、「基準価額の算出停止」はどれだけヤバイ?
さらに今回、一部の投資信託では、組入資産の正常な評価ができないことを理由に、投資信託の値段である基準価額の算出も停止された。
ここでいう「停止」とは、組み入れているロシア関連資産の評価額をいったんゼロとして基準価額を算出(この時点で基準価額は大幅に低下)し、算出再開まで事実上基準価額が変動しない状態を指す。
一見すると、これまで急落していた基準価額が下げ止まったかのように思えるが、これは正常な組入資産の評価ができないという機能不全の状態であり、やはり歓迎できるものではない。今後、基準価額の算出が再開された際に評価額がゼロから引き上げられる可能性もあるが、現在の水準からどの程度回復するかは未知数だ。
主としてロシア関連資産を投資対象とする公募投資信託は22本(ETFを除く)現存するが、こうした一連の状況を踏まえると、遅かれ早かれ、これらのファンドが繰上償還となる可能性も否定できない。なぜなら、足元の状況、目論見書上記載の繰上償還の条件である「受益者のために有利であると委託会社が認める場合」や、「やむを得ない事情が発生した場合」に該当し得るためだ。
【次ページ】ロシアは「投資に値しない」と言える理由