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米国では2020年2月以降のコロナ禍による供給網の混乱に加え、人手不足に起因する物価の上昇(インフレ)が顕著となり、遂にバイデン大統領が自身の最優先の政策課題の1つだと明言する事態となっている。この労働力不足の主な原因の1つは、人々がどんどん職場を去る「大離職(the great resignation)」にあるとされる。そして実は、この離職傾向はリーマンショック後の10年ほど前からすでに増加中であったものが顕在化したものに過ぎない。なぜ、今になってこれほど問題化したのか、解消策は何かを分析する。
自発的離職は増え続けていた
上の図表は、米国における2010年以降の自発的離職数を、米Work Instituteが2023年までの予測も含めてグラフ化したものだ。2008年9月のリーマンショックから米経済が回復し始めた2010年に、その数はすでに年間延べ2000万人を超えているだけでなく、景気が過熱も冷え込みもしない「ゴルディロックス相場」(適温相場)が出現した2010年代全体を通して増え続け、コロナ禍直前の2019年に倍の延べ4000万人を突破していた。
翻って、下図で米国の失業率の推移を見ると、リーマンショック後の2009年10月に10%まで上昇した後は順調に下降を続け、コロナ禍直前には3%台まで低下している。失業率と自発的離職数は、反比例の関係にあることがわかる。
ところが、新型コロナウイルスの爆発的な流行によって各州政府が実施した都市封鎖(ロックダウン)により、多くの企業や組織が活動自粛を余儀なくされたことで、米国の失業者は2020年4月に一時的に2300万人を超えた。同月の失業率は14.7%まで跳ね上がっている。だが、一部の州でロックダウンが長引いたにもかかわらず失業率は再び急低下し、2020年9月には7.9%まで改善。その1年後の2021年9月は4.8%となった。
こうした中、パンデミック以前にはあまり聞かれなかった人手不足が、特に2021年に入ってから問題化するのである。ではなぜ、リーマンショックから回復する過程のゴルディロックス経済において、自発的離職数が増え続けていたにもかかわらず、特段話題や問題にならなかった労働力不足が、パンデミックにより顕在化したのだろうか。
以前からの問題点が、コロナで一気に表面化
まず、コロナ前とコロナ後の統計を比較してみよう。米労働省の雇用動態調査(月次)によれば、2021年9月の自発的離職者数は440万人と過去最高を記録した。離職率は3%まで上昇し、これも統計開始の2000年以来の最高となっている。パンデミック以前には毎月の自発的離職者が350万人前後で推移していたが、2020年中盤からそのレベルを超えた離職が続き、増加が止まらないのである。主に宿泊・飲食サービス、卸売、州・地方自治体の教育関連で離職が増加中だ。
そのため、パンデミック前には見られなかった労働力需給のミスマッチが起きている。2021年9月の求人数は1040万件あったにもかかわらず、10月の失業者数は742万人であり、雇用者と労働者のニーズが合致していないことを示している。具体的には、働き手が雇用条件に必ずしも満足していないことを示唆するギャップだ。
事実、米金融ポータルのマグ二ファイマネーの1000人の成人労働者に対するアンケート調査では、24%が「転職は収入増に最適な方法だ」と回答し、ミレニアム世代ではその割合がさらに高かったという。
こうした中、アメリカン航空など主要航空会社でパイロットやフライトアテンダントが不足し、新人の訓練も需要に追い付かず、現在在職中の従業員に残業ボーナスを出すなどして労働力を確保している。だが、要員はフライト間の十分な休養が取れず、安全面への影響を懸念する声が上がっている。また、eコマース最大手のアマゾンや、小売競合のウォルマート、ターゲットなどでも軒並み最低時給を引き上げ、特別ボーナスを支給するなど、書き入れ時の年末商戦期間における人材確保に努めている状況だ。
現在、米労働市場に残る需給のミスマッチがいつ解消されるかについては、エコノミストの間でも意見が分かれるところだが、調査企業のフィッチレーティングスのように、「2022年中は続く」という見解が多い。新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロンが重症化や死亡率を悪化させるものであれば、労働市場の混乱はさらに長引く可能性もある。
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