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米銀大手が勘定系システムにクラウドを採用するとのニュースは世界的に話題となった。日本国内でも複数の銀行で事例が出ており、銀行インフラが今後大きく変化することが予想される。本稿では調査結果や事例など、「銀行勘定系のクラウド化」の潮流を解説する。
注目されたJPモルガンチェースの発表
米銀最大手であるJPモルガンチェース(JPMorgan Chase)が、米国内の商業銀行業務の勘定系システムをクラウドに移行させることが、American Bankerなど多くの金融メディアで
報じられた。具体的には、英国発のフィンテックスタートアップであるソートマシーン(Thought Machine)が提供するクラウドベースの勘定系システム採用を決定したということである。
記事の中で同行のChief Product Officerであるロハン・アミン氏(Rohan Amin)氏は「既存勘定系システムの機能と新たに提供される機能を充分に検討し、Thought Machine採用が最善の策と判断した」とコメントしている。
よく「レガシーシステム」と表現される既存の勘定系システムにおいては、預金や融資、クレジットカードなどのシステムが個別に構築されており、新たな商品・サービスを提供する際の開発負荷が高いことが問題となってきた。また、柔軟性に欠けるシステム構造が、顧客体験を改善する際の妨げとなっていた。さらに、既存システムにおいては、外部サービスと接続するためのAPI基盤の整備に時間とコストがかかる点も課題である。
そうした課題を解決し、5700万以上のアクティブなデジタル顧客(ネットやモバイルを月に1回以上利用したユーザー数)に安定したアクセスを提供できる目途が立ったということで採用が決定したという。
勘定系システムにおけるクラウド採用
世界的に見た場合にも、クラウドベースの勘定系システムは、英国発の
Thought Machineがチャレンジャーバンクと呼ばれるアトムバンク(Atom Bank)、マネーズ(Monese)、カーブ(Curve)<英国>、さらにはスタンダードチャータード(Standard Chartered)が設立したデジタルバンクモックス(Mox)<香港>などで採用されている。
また、ドイツ発の
マンブー(Mambu)がソラリス銀行(Solarisbank)、N26<ドイツ>、オークノース銀行(OakNorth)<英国>、タイロ(Tyro)<オーストラリア>などのチャレンジャーバンクで、新規システムを構築する際に採用された実績がある。
とはいえ、今回のJPMorgan Chaseのように、「レガシーシステム」を使用しているメガバンクが既存顧客に対するサービスにおいて本格的にクラウド移行するというのは初めてであり、今後の移行がどのように進むか不透明な部分はあるが、クラウドコンピューティングの銀行システムにおける利用に関して画期的な事例と言えよう。
情報系で先行するクラウド利用
もともとクラウド利用には慎重であった金融領域においても、勘定系システム以外のいわゆる情報系システム、たとえばメールシステムやEラーニングなどでは一歩先にクラウド利用が進みつつある。
国内では「FISC安全基準第8版追補改訂(2015年)」においてクラウドサービス利用についての基準が規定され、主要クラウド事業者がFISC安全基準への準拠状況を公開することによって、クラウド導入の障壁が低くなった。
このため、平成30(2018)年の情報通信白書においては、平成29(2017)年の段階で都銀・信託の100%、地銀の81.8%がクラウド利用を開始しているという
データがある。ただし、基幹系システムにおいてパブリッククラウドを利用している銀行は2.1%にとどまっており、明確に差があった。
金融庁が令和2年(2020年)6月に発表した「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」でも基幹系システムにおいてパブリッククラウドを利用している地域銀行の割合は、1割程度という記述がある。同レポートではクラウド利用に対する懸念理由への調査も記載しているが、未だに銀行の「クラウド利用への懸念」が根強いことがうかがえる。
【次ページ】国内銀行の「勘定系クラウド化」の現在地