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  • 2021/04/26 掲載

リモート時代にリニア新幹線は必要か? 問われる「産業構造大転換」への日本の覚悟

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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JR東海(東海旅客鉄道)は、リニア新幹線の建設を進めている。しかし、新型コロナの影響で新幹線の収入が激減したため、財政基盤が大きく揺らいでいる。テレビ会議の普及によって在宅勤務が広がり、出張が見直されている。この変化はコロナ収束後も元には戻らないと考えられるため、「そもそもリニア新幹線が必要なのか?」「リニアはコンコルドの二の舞にならないか?」という疑問が生じている。「移動からリモートへ」は、産業構造の大変化を引き起こすが、それが日本経済に与える影響が憂慮される。
執筆:野口 悠紀雄
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JR東海が開発するリニア中央新幹線「L0(エルゼロ)系」の改良型試験車
(写真:東洋経済/アフロ)

新幹線収入が激減

 新型コロナウイルスの影響で、新幹線の乗客が激減した。特に大きな影響を受けたのは、東海道新幹線が運輸収入の約9割を占めるJR東海だ。

 2021年2月22日に発表された通期業績予想(単体)によると、営業損益は、2019年度(2019年4月~2020年3月)の6,231億円から大きく落ち込み、2020年度には2,240億円の赤字となった(通期業績予想の修正に関するお知らせ)。

 これは、営業収益が19年度の1兆4,369億円から20年度の5190億円へと64%も落ち込んだからだ(このうち、旅客収入は、1兆3,656億円から4530億円へと67%の落ち込み)。

 鉄道会社の場合、固定費が多いので、乗客が減っても、それに対応して経費を削減することは難しい。実際、JR東海の場合、19年度の8,139億円から20年度の7,460億円へと8%削減できたにすぎない。

 収入の落ち込みは、極めて大きな変化だ。しかも、後に述べる「移動からリモートへ」という変化を考えると、コロナが終息した後にも、状況は完全には元に戻らない可能性が強い。

揺らぐリニア新幹線の財政基盤

 JR東海は、東京・品川と名古屋とをつなぐ「リニア新幹線」の建設を進めている。2027年に品川-名古屋を先行開業し、37年に大阪まで延伸する。東京・品川-大阪間の総工事費は、9兆300億円に上る。

 これによって東名阪が1つとなった人口7000万人の巨大な都市圏「スーパーメガリージョン」が誕生し、日本の国際競争力が向上するとされた。

 ただし、障害があった。まず、静岡県の川勝平太知事が、大井川の水量に与える影響(水量が減ることによる生活権の侵害など)などについて懸念を表明しており、現在も交渉が続いている。

 さらにリモートへの転換によって、今、もう1つの基本的な問題が生じたことになる。リニア新幹線の建設費は、全額をJR東海が自社で負担することとなっている(なお、3兆円は財政投融資が使われる)。

 しかし、上で見た新幹線収入の激減により、財政の前提が大きく揺らいでいるのだ。

「移動からリモートへ」という変化は元に戻らない

 仮に前記の問題が解決されたとしても、なお、基本的な問題が残る。「そもそも、リニア新幹線は必要なのか?」ということだ。

 これまで、移動時間の短縮は、無条件に望ましいことと考えられてきた。しかし、それに疑問符がついたのだ。

 それは、この連載ですでに何度も述べてきたように、「移動からリモートへの変化」が起きているからだ。これによって、働き方と仕事の進め方が、根本から変わりつつある。

 これまでの行動の中には、リモートで代替できるものがかなりあった。そのムダに多くの人が気づいたのだ。

 もちろん、対面でなければ伝えられない情報もあるから、移動がまったくなくなるわけではない。しかし、非常に大きな変化が生じていることは間違いない。

 今後、移動とリモートの最適なミックスが模索されていくことになるだろう。

 重要なのは、「リモートの技術はコロナ前にもあったのだが、一般に認められていなかった」ということだ。

 コロナによって、多くの人がそれに気がついた。そしてそれを受け入れた。技術は用意されており、コロナはそのきっかけを作っただけだ。

 だからこの変化は、コロナ期だけのものではない。それは元には戻らない変化であり、コロナが終わっても継続する。

【次ページ】コンコルドの二の舞い?
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