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中国がブロックチェーン技術の本格的な普及に向け、デジタル人民元の試験運用を実施してしばらく経つ。また、ドイツやオーストラリア、インド、アメリカ、韓国、イギリスなど、世界各国でもブロックチェーン技術の活用に積極的な動きを見せ、日本においても「デジタル日本円」の実現にむけた取り組みとして、日銀は中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の実現を見据えた準備を始めている。それではブロックチェーンを正しく理解し自らの強みを生かしたサービスを生み出すには何が必要なのだろうか。
※本記事は、日本ブロックチェーン協会(JBA)のデジタルガバメント推進分科会が2020年8月29~30日に主催したオンラインイベント「Blockchain Bootcamp 2020 Summer」の内容をもとに再構成したものです。
ブロックチェーンを特別視しない
ブロックチェーンは暗号資産(仮想通貨)とセットで登場したせいか「中央集権的でない分散的なシステムをつくるもの」「トークンを上手く扱える技術」といった偏ったイメージから脱却できないのも悩ましい点だ。
ここに現在のブロックチェーン技術の実状と現実の間に大きなギャップが生じている。ブロックチェーンは実際には完全に分散的なシステムにこだわっていないものや、トークンとはまったく関係のない使われ方をするものなど、世の中を変える技術として活用の幅が広げり始めている。
日本ブロックチェーン協会 (JBA)代表理事の加納 裕三氏は「分散型金融(DeFi)は1つの答えかもしれないが、いずれにしてもブロックチェーン自体が基礎技術なので消費者(toC)に対してキラーアプリが必要」と話している。
いわゆる「IT革命」が起こった2000年当時、マイクロソフト(Microsoft)がWordやExcelといった「ワープロ」をインターネット上に実装したように、ブロックチェーンを活用した「toCアプリ」の存在は必要不可欠とした。
しかし、「日本とブロックチェーンとの相性は正直良くない」とJBA理事の福島 良典氏は話す。その理由は、日本においては法とガバナンスの壁が分厚く横たわるからであり、ルールメイキングを含めてブロックチェーン開発を進めるには多大なリソースが必要となる。
しかし裏を返せば、いまだ紙とハンコの文化である日本のビジネスシーンにブロックチェーンを導入することで、働き方やサービスが目覚ましく向上する可能性が秘められていると言える。
ブロックチェーンサービスは「シンプルなところ」を考えよ
さて、ブロックチェーンを活用したサービスを考える際、シンプルなところからスタートしてみると良いと加納氏は指摘する。手法としては、「すでにある強みを掛け合わせ、ブロックチェーンによってもっと簡単にならないかを考えてみる」というもの。
加納氏は「ひとつの強みだけではなく掛け算で考えると希少性が増してパワーが出る」と語っている。英語が得意、PCの知識がある、犬の散歩が三度の飯より好き、など何でも良いのでそれらを掛け合わせてみると、意外な結果が得られる場合があるものだ。
さらに加納氏は「難しいことがもっと簡単になれば良くて、ボタンを押すだけみたいなユーザーにとってとても簡単に使えるものが便利で良いのではないか」と語っている。なぜブロックチェーンなのか、DBとは何が違ってDBではなぜダメなのかではなく、ブロックチェーンを活用することで面倒なことや効率の悪い作業がもっと簡単で便利になる、という「ブロックチェーンを特別視しない考え方」に脳内をシフトさせることを推奨した。
「ブロックチェーンを特別視しない考え方」のイメージが難しければ、Eメールを例に考えてみよう。伝達手段としては必ずしもEメールである必要はないはずだ。ペンを手にとって封筒に住所を書き、切手を貼ってポストに投函し、配達に数日をかけてようやく届く工程に味わいこそ感じるが、時間と手間がかかるだけでなく紛失や破損、盗難の恐れが付きまとう。
KYC(本人確認)などでは未だ信頼性の高い手段として郵便での本人確認を実施しているのも事実ではあるが、それでもEメールは世界的に完全に普及し、その利便性に疑問を抱く人はいないだろう。ここから導き出される考え方は「手法と技術の共存」であり、必要に応じてブロックチェーン技術を利用する度合を選べばよいということだ。
では、どのようなサービスがブロックチェーンと相性が良く、サービスとして浸透する可能性があるのだろうか。まずは「何が得意で何が向いていないのか」を理解するために、ブロックチェーンの特性と特徴を確認する。
ブロックチェーンはその特徴として「改ざんできない」「コピーできないコンテンツがつくれる」「改ざんできないので書き換えができない」などが挙げられることが多い。これらは一見正しいようで正確な理解ではない。ブロックチェーンはデータを保存するための技術ではなく「履歴を正しく残して保証する技術」である。
ブロックに書き込んだオリジナルのデータが証拠として記録され、それを保証するというイメージである。つまり、何らかの変更が生じた場合、新たな情報として更新していけばその履歴が保証されるというわけだ。ただ、まったくなかったことにはできない(ブロックチェーンごと消し去れば可能だが...)ので、契約終了後にデータを削除するといったことはできない点には考慮する必要がある。
ブロックチェーンサービス開発で重視すべき「3つの信頼」
ブロックチェーンにはさまざまな性質があるが、中でも「3つの信頼」は鍵となる性質だ。
1つめの信頼は「トランザクションでの信頼」だ。トランザクションには必ず署名(ハンコ)エリアがありデータに対して電子署名がされるわけだが、権利がある人のみトランザクションをつくることができ、これによりなりすましを防ぐことが可能となる。
2つめの信頼は「ステートでの信頼」。「ステート」とはトランザクションを実行した後の状態のことだ。
電子署名がされているからといってトランザクションが有効とは限らない場合(例:残高が足りない、移動距離と車のGPS情報が一致しないetc...)があるのだが、トランザクションを実行していくことで状態を検証することが可能だ。この点こそブロックチェーンが検証可能性/トレーサビリティ/自動執行/改ざん耐性に優れていると言われるゆえんである。
3つめの信頼は「ブロックでの信頼」。どのブロックを正しいとするかはコンセンサス(合意)によって決まるため、中央管理者なく運営が可能(ないしは管理者を分散することができる)でここに改ざん耐性がある。
「トランザクションでの信頼」「ステートでの信頼」「ブロックでの信頼」、これら3つの信頼をクリアしたものがブロックチェーンである。
ここで、電子署名サービスとの違いについて少し触れると、電子署名サービスは「なりすましを防止するもの」であり、ブロックチェーンは「順序を保証するもの」だ。電子署名サービスは請求書に署名したことは保証してくれる。
一方、ブロックチェーンは契約締結>納品>検収>請求書という順序によって実行されたことを保証するというわけだ。ブロックチェーンの特異性は、誰かひとりの権威(裁判所、証券会社など)によって承認されるのではなく、「ブロックチェーンネットワークに投げ込まれた結果が正しいから正しい」という点にある。
この特性を生かしたサービスとして「デジタル公証役場」が一例としてあげられる。ブロックチェーンは低コストで簡単に使える公証役場として、証明書やお金、株式、不動産の登記などを行うことができるといえる。
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