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  • 2020/08/28 掲載

Plug and Play Japan 貴志 優紀氏に聞く、コロナ禍がフィンテック投資に与えた影響とは?

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は全世界に広がり、日本でも緊急事態宣言が発令され、多くの企業がリモートワークへ移行するなど対応に追われた。2020年8月現在では緊急事態宣言も解除され、経済も回り始めているが、依然としてオフラインで集まることはリスクと見なされている。この状況下で、フィンテック企業は来たるべきニューノーマル(新しい様式)の時代に向けて、どのような準備をすべきなのか。Plug and Play Japanのフィンテック、リテール ディレクターであり、Fintech協会の理事である貴志 優紀氏に話を聞いた(インタビュー実施日 6月27日)。
執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司

執筆:フリーランスライター吉澤亨史、構成:編集部 山田竜司

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Plug and Play Japan
フィンテック、リテール ディレクター
Fintech協会 理事
貴志 優紀氏

コロナ禍がVCや新規事業に与えた影響とは?

──コロナ禍がVCや新規事業に与えた影響について世界的にはどんなインパクトがあったのでしょうか。2020年2~6月末までの分析をお願いします。

貴志氏:現在、スタートアップ投資や新規事業活動についてさまざまな分析レポートが出ていますが、いずれも前年同期比との比較では下降傾向です。

 CBインサイトが発表した2020年Q1のレポートによると、グローバルのフィンテックセクターではこれまで毎年堅調に投資金額、投資件数ともに上がっていたのですが、今回のコロナの影響で第1四半期は、投資金額では投資金額でも2016年以来の落ち込みです。

 ただし、事業が落ち込んだ時期は地域によって差があります。アジア、特に都市封鎖された湖北省武漢市での件もあって中国は早目に影響が出ています。また、第2四半期(4~6月)には米国や欧州などの先進国に波及してくると思われます。ただ、BCGシンガポールが発行した上半期(2020年1~6月)のレポートによると、シンガポールでは4~6月は復調の傾向が見られるという報告もあります。

 投資領域にも変化が起きています。フィンテックでも、コロナ禍前の1~3月期までは資金調達の投資ラウンドは「シード」が多かったのですが、4~5月はある程度の成長規模のスタートアップを示す「シリーズB」以降が多くなっています。投資がより後期のリスクがやや小さいスタートアップへシフトしていると言えます。

 その理由は、2つあると考えています。1つはバリエーション(企業の市場価値)が少し下がり、シリーズB以降のスタートアップが投資しやすくなったことです。

 もう1つは「投資家の心理」です。シードからシリーズAは「ビジョン型経営」、シリーズB以降は「指標型経営」と言われることがありますが、投資側の心理上のリスクが小さい「指標」に重きを置いてしまう傾向があるように思います。

 ただ、スタートアップのシリーズBなど投資ラウンドのレイターステージでは「ファンドレイジングが難しい」点は留意する必要があります。「ビジョン型から指標型」に変わる境目でもあり、今は指標が軒並み悪い状況にあります。起業家側がきちんと指標をプロジェクトとして見せることが難しいわけです。そのため今後、シリーズAとBの間に谷ができてしまう可能性はあるでしょう。

──なかなか厳しい状況ですが、スタートアップ投資が続く機運はあるのでしょうか?

貴志氏:独立系VCは“現状維持”が多いようです。一方、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が二極化しているような印象もあります。投資活動を抑えるところもある一方で、今だからこそ積極的に増やしたり、アクセルを踏んだりするところもあります。どちらが正解かはわかりません。

 ただ、スタートアップのオープンイノベーションなどの取り組みは、市場が不安定な時に踏ん張れるかが信用に関わってきます。やめるか、継続するかの判断の結果が判明するのは、4~5年先かも知れません。

 たとえば米国では金融機関をはじめ、2015年頃からスタートアップへの投資や協業を行い、さまざまなDX活動に取り組んでいます。米ウォルマート(Walmart)などの小売業では、コロナ禍でフィジカルな店舗での売り上げが落ちてしまっても、オンラインでの売り上げが伸びているところもあります。先が見えないからこそ、支援は重要だと思います。


コロナ禍でも成長するフィンテック領域とは

──フィンテック企業やフィンテックスタートアップの動きはいかがでしょうか。

貴志氏:いまこの段階でフィンテック領域だけの傾向をお答えするのは難しい状況です。ややくり返しになりますが、まずフィンテックに限らず、どう出血を止めるか、いかに無駄をなくして筋肉質な経営体質にするかに躍起になっている企業が大半です。このことからスタートアップへに関しても、今まで6カ月あれば十分だったランウェイ(スタートアップの資金が底を突くまでの残り時間)が12~24カ月は必要という認識が強まり、この点が投資家から求められる指標になることもあります。

 あえて言うとするならば、投資の「レイターステージへのシフト」のほかに、SME(中小企業)向けのフィンテックというエリアが、資金調達面では盛り上がりを見せています。

 体力がないSMEへの資金調達が社会的に求められていて、それに対してテクノロジーの力で応援するフィンテック企業にニーズがあります。もちろん政府の後押しはあると思いますが、それは出血を止めるためでしょう。しかし、コロナによってニーズが高まっているので、「これは伸びるはずだ」ということで、資金がそちらに回っていると考えられます。

 たとえば、シンガポールのファンディング・ソサエティーズ(Funding Societies)というPtoPレンディングの企業です。同社は2020年4月に資金調達してシリーズCに位置づけられ、ソフトバンクベンチャーズやLINE、セコイヤなども投資しています。同じくシンガポールのフィンテック企業である国際送金スタートアップのニウム(Nium)もコロナ禍前から予定されていた調達をこの5月に実現しています。

日本で特に伸張が期待できる領域を解説

──日本のフィンテック企業を取り巻く環境についてお教えください。

貴志氏:日本のフィンテックの資金調達需要を反映したデータがないのですが、海外の流れを汲んでいる部分はあると思います。

 コロナ禍への対応で、よりテクノロジーの文脈でのリモートワークなどに関連するサイバーセキュリティへの需要であったり、また行動様式が大きく変化したことによる、人の動きやバイオメトリクス、生体認証などから取れるデータを活用するスタートアップなどは一定数のニーズが出てくるでしょう。

 また、コロナの影響で初めて株投資した人が増えているというニュースがありました。そうすると今後は「金融のリテラシーをどう上げるか」に注力する人が増えてきそうです。

 日本では、エービーキャッシュテクノロジーズ(ABCash Technologies)が女性向けのフィナンシャルプランニングやプロがマンツーマンで資産管理をサポートするサービス「お金のトレー二ングスタジオ」を始めています。その部分を強化するような施策は今後、スタートアップから出てくるでしょう。

 日本が海外の流れを汲んでいることを示すニュースとして、英国の中央銀行であるバンク・オブ・イングランドでも、ベテランの漫画家とコラボレーションして、若年層世代に向けたフィナンシャルリテラシー向上のためのコンテンツを漫画で作成したと発表しています「金融リテラシーをいかに向上させるか」は、グローバルで大きな潮流になりつつあるようです。

【次ページ】フィンテック業界に起きたコロナ禍での変化
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