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- 2019/12/12 掲載
「改正外為法」の影響は? 外国人投資家は本当に逃げてしまうのか
スピード審議の理由は、トランプ政権へのアピール
従来の外為法では、外国人投資家が特定業種に属する日本企業の株式を10%以上取得する場合、事前の届け出が必要とされていた。届け出が受理されると審査が行われ、問題がなければ取引開始となるが、問題があると判断された場合には、取引の変更や中止の勧告が行われ、投資家が受け入れない場合には、取引中止命令が発動される。これまで命令が発動されたのは、英国の投資ファンドが電源開発の株式を取得した1件のみである。このところ、米中の対立が激化しており、トランプ政権は、中国を念頭に投資規制強化に乗り出している。こうした事態を受けて、日本でも規制強化が必要との声が高まり、今回の法改正につながった。
日本企業より高い技術力を持つ中国企業が増えているという現実を考えると、中国側が日本の株式市場を通じて重要技術の獲得に乗り出すというのは少々考えづらい。今回の法改正は、中国への対処というより、むしろ、トランプ政権に対して強くアピールしたいとの意向が強いと考えられる。
改正外為法では、事前届け出の基準が10%から1%に引き下げられたので、今後はわずかな株式の取得でも事前審査の対象となる。だが一方で、ヘッジファンドを含む、一般的な投資ファンドが株式を取得する場合には、逆に届け出義務は免除された。取得する株式のシェアについては基準が厳格化されたものの、投資家の属性という部分ではむしろ規制は緩和されたといえなくもない。
この法案に対しては、証券業界を中心に「外国人投資家の流出を招く」として、慎重な意見が相次いだが、政府は法案成立を最優先させ、あっという間に国会での審議が進んだ。
上記のように、今回の法改正は規制の厳格化でもあるが、同時に規制緩和でもある。一般的な投資ファンドが対象外になっているという状況を考えると、株式市場への影響は限定的と思われる。
では、なぜ証券業界はこの規制に警戒感を強めているのだろうか。これには、アベノミクス以降における、日本の株式市場の特殊性が関係している可能性が高い。
安倍首相“自ら”が外国人投資家を呼び込んだ
1990年代から2000年代にかけて、日本の株式市場は世界における主要市場の1つとして位置付けられていた。だが、日本企業の競争力が著しく低下したことから、長期的な視点で日本企業に投資する投資家は減少し、リーマンショックがそれに拍車を掛けた。外資系金融機関の撤退が相次ぎ、日本の株式市場は、アジアのローカル・マーケットの1つになってしまった(かのウォーレン・バフェット氏は、基本的に日本市場には一切投資をしない)。こうした状況を一変させたのがアベノミクスである。
安倍政権は、大規模な量的緩和を実施して意図的に円安を演出。日本円が減価した分だけ、日本の株価は上昇した。安倍首相自らが、海外で「日本株は買いだ」といった演説を行うなど、積極的に投資をアピールしたこともあり、日本市場には再び外国人投資家が戻ってきた(政府のトップが、直接的に株式投資を推奨する演説を行うのは、国際的に見てもほとんど例がない)。
だが、アベノミクス以降、日本に投資している外国人投資家は以前と同じではない。
アベノミクスによる株高はあくまで金融相場であり、長期的な成長を期待する投資ファンドは相変わらず日本企業には投資していないというのが実状だ。今、日本に投資している外国人投資家の多くは、短期的な利ざや獲得を狙う、荒っぽい投機的な投資家と考えて良いだろう。
こうした投機筋は、市場の規制が強化されたり、手続きが面倒になると一斉に引き上げてしまうという特長がある。長期的な成長に資金を投じるファンドであれば、今回のような規制強化があっても何の問題も起きないだろうが、投機筋の場合にはそうはいかない。
規制の対象となる銘柄には、場合によっては空売りが仕掛けられ、市場が乱高下する可能性もあるだろう。証券業界が懸念しているのはこうした事態と考えられる。
【次ページ】本当に「安全保障上の問題」だけなのか?
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