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フィンテックに関わるキーパーソンへのインタビューを収録し、関連技術やサービス事例を解説した『
フィンテックエンジニア養成読本 』。執筆に携わった、auフィナンシャルホールディングス藤井 達人氏、Institution for a Global Society 阿部 一也氏、インクルージョン・ジャパン 吉沢 康弘氏の3名へのインタビュー後編では、日本におけるフィンテックの課題や解決策、また、今後注目するフィンテック領域について聞いた。
日本のフィンテックの問題点
さまざまな領域で実際にフィンテックを推進している3者だが、その「課題」についてどのように見ているのか。
藤井氏は、「日本においても、AIやAPI、ブロックチェーンなどのテクノロジーに関するワードが注目されている。多くの金融機関においては、それらを活用してどのようなビジネスを仕掛けていくかについては、まだ模索が続いている状態ではないか」と述べ、注力分野が定まっていない点を課題として指摘した。
「海外に目をやると、成長しているフィンテック企業は、『社会課題』に取り組んでいるところが多いと感じます。そうした企業に呼応して、伝統的な金融機関も類似の領域に参入しています。日本でも、目立つ社会課題への対応やメガトレンドに沿った取り組みを進めるのも一手です」(藤井氏)
たとえば、インバウンドの増加や外国人労働者が増えることによる外国人に向けた金融サービスのあり方や、少子高齢化、異常気象や空き家問題、シェアリングエコノミーの台頭といった社会的課題がある。こうした課題に着目し、適応するサービス、テクノロジーは何かを考えていくのがポイントだという。
一方、吉沢氏は、「特に金融機関に多い課題」として「顧客をステレオタイプで見てしまう問題」があると述べる。その一例として、吉沢氏は次のような個人的体験を挙げた。
あるとき、伊勢神宮の「おかげ横丁」という観光地で、祖母、母、娘という三世代で旅行をしている家族を見たときに、祖母が「モバイルアプリのロボアドバイザーを駆使して資産運用をしており、入学祝いもこれで買ってあげられるというような会話をしていた」とのこと。
「金融機関を主語にして高齢者を見ると、あまりモバイルなどを駆使しない、ステレオタイプなものの見方をしがちです。一方、アクティブに活動しているシニア層というのは、実は多いのかもしれない。そして、そうした年代層が、市場における金融資産のマジョリティを握っているわけです」(吉沢氏)
その意味で、顧客を知る“解像度”を上げ、ニーズから逆算してサービスを考えることが重要という。ターゲットを明確にしたら『今できること×テクノロジー』という組み合わせで考えると成功につながりにくい」と吉沢氏は語る。
課題解決に必要な組織、人材とは?
では、こうした「注力分野が定まっていない」「顧客と定める人がどんな人か、解像度が低い」という金融機関が新たな事業領域に取り組む上での課題をどのように解決したらよいのだろうか。その糸口として、藤井氏は2つのポイントを挙げる。
1つは、今多くの金融機関が取り組んでいる業務プロセスの合理化によるコスト削減と、その削減分を確実に新たな領域に投資することだ。もちろん、コスト削減効果は「永遠に続くものではない」ことから、その次の収益ドライバーをどう作るかがカギとなる。
「フィンテックの本質は、これまで不可能と考えられていたことが、技術の活用によって可能になることにあります。今までの非常識が常識へと変わっていくということです。先鋭的な施策は現業に影響を及ぼすことになるでしょうが、大企業が嫌うカニバリゼーションを恐れず前進していかなければなりません」(藤井氏)
また、藤井氏は「GAFAのような企業が金融に進出してきているが、金融領域のプラットフォームを侵食するところまでは来ていない。金融機関が次の時代の金融プラットフォームを主導するため、企業や地域横断、国を横断してコンソーシアムを組むことが必要になるのでは」と述べた。
2つ目は、「いかにうまく外部と連携するか」だ。
「金融機関が金融以外のことをいきなりやろうとしても人材がいないため、難しいでしょう。また、大抵の領域にはすでに強力な競合がいるので、金融という軸は外すべきではないと考えます。金融は機能化していく性質もあり、オープンイノベーションで外部企業とうまく連携し、外の世界でのイノベーションを促進することも重要です」(藤井氏)
たとえば、中小企業向けのオンライン融資サービスでベンチャーと連携したり、メガバンクがネット企業と組んで銀行を作ろうとたりする事例があるが、「連携事例を、きちんと収益ドライバーに育てていくまで投資できるかが重要」(藤井氏)とした。
吉沢氏は、外部との連携という観点で、「客観的な目」の重要性を挙げる。
「たとえば、メガバンクは法人口座を数多く保有しているものの、実際に銀行の本体社員が注力してお金を貸し出すのは、最低でも売上10億円以上の会社のみということが少なくありません。保有する法人口座のわずか数%程度なのです」(吉沢氏)
これは、「少額案件では銀行員の人件費に見合わない」ためだ。一見すると経済合理性から当然に見えるし、人事評価も「どれだけ大きな貸し出し案件をまとめたか」が大きく反映している。
しかし、外部から見ると、「残りの口座が活用されていないのはもったいない」と映る。これをたとえば「テクノロジーで、ゼロコストで審査したら収益源になるのではないか」というように、外部の目によって示唆が得られる場合があるという。
そうした課題、テーマにさえ気づけば、「銀行内部には優秀な人材が多いので、ゼロコストで貸し出す仕組みを作れば、今までと違う収益源になるかもしれない。データを活用し、その中から成長しそうな会社を予測することもできるかもしれない」と吉沢氏は話す。
成長の可能性が高い会社に対しては、有人対応で営業担当者をつけて支援することで、“化ける”可能性もあり、銀行としても収益が得られる。
ポイントは、「外部の人を深く巻き込んでビジネスを再検討し、チャンスを洗い出す。そこに対してどうテクノロジーが生かせるかを考えることだ」と吉沢氏は指摘した。
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