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  • 2020/02/20 掲載

なぜ「事業会社のxTech化」が金融業界に衝撃を与えるのか

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フィンテックによって金融業界の産業構造は急激に変化している。AIやブロックチェーンをはじめとするテクノロジーの進化のスピードは目覚ましく、ビジネス環境の先行きの不透明さは増している。その結果、自社のビジネスの舵取りや個人のキャリアパスを描くことはますます難しくなってきた。そこで、『フィンテックエンジニア養成読本』を上梓したauフィナンシャルホールディングス藤井 達人氏、Institution for a Global Society 阿部 一也氏、インクルージョン・ジャパン 吉沢 康弘氏の 3名に、書籍刊行の経緯や狙い、経営者や銀行で働く人へのメッセージ、注目するフィンテック領域について語ってもらった。
聞き手、構成:編集部 山田竜司、執筆:阿部 欽一

聞き手、構成:編集部 山田竜司、執筆:阿部 欽一

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「事業会社のxTech化」が金融業界に衝撃を与える理由とは

エンジニアはもっと金融イノベーションに目を向けて欲しい

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auフィナンシャルホールディングス 執行役員 最高デジタル責任者 兼 Fintech企画部長 藤井達人氏
1998年よりIBMにてメガバンクの基幹系開発、インターネットバンキング黎明期のプロジェクト立上げ、金融機関向けコンサルティング業務に従事。その後、マイクロソフトを経て、三菱UFJフィナンシャル・グループのイノベーション事業に参画し、フィンテック導入のオープンイノベーションを担当。「Fintech Challenge 2015」「MUFG Digitalアクセラレータ」「銀行APIハッカソン」「MUFGコイン」等の設立を主導。APIやブロックチェーン等の新規事業等の立上げも手がけた。現在はKDDI/auにて、フィンテックを活用したデジタル金融サービスの創造に取り組んでいる。
 阿部氏、藤井氏、吉沢氏の3氏は、2019年10月、12人の共著による『フィンテックエンジニア養成読本』(技術評論社刊)を上梓したメンバーに名を連ねる。

 執筆のきっかけについて、藤井氏は「フィンテックの書籍はどちらかというとビジネス寄りの内容が多く、エンジニアの視点で議論が盛り上がれば、さらにビジネスの裾野が広がっていくと考えた」と話す。

 フィンテックは、これまでの「金融のIT化」とは異なり、AIやブロックチェーン、あるいはモバイルUI/UXといった、最先端のテクノロジーを取り入れながら進化している側面があるため「テクノロジーにかかわるエンジニアに興味を持ってもらうことが大事だ」という。

 阿部氏も、フィンテックという言葉の盛り上がりの反面、「金融におけるビジネスサイドとエンジニアサイドにはまだ距離がある」と感じることがあるという。

 社内でサービスやシステムを開発する際の内製率はまだまだ低く、その意味で「銀行内部に、新しい領域のテクノロジーに強く、プロジェクト遂行能力やアジャイルな思考を持った人材が求められている」と考えている。

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Institution for a Global Society(IGS)株式会社 上席研究員 阿部一也氏
IT企業でシステムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、金融機関の研究所にて最新技術の調査や研究業務の支援に従事。ITコミュニティ(PythonやAI、クラウド、ブロックチェーンなど)の運営や、技術書の執筆なども行っている。本書の第1部第1章の執筆と全体の監修を担当(執筆時は、三菱UFJトラスト投資工学研究所に所属)。現在はIGSにて、ブロックチェーンを活用した信用社会創造の研究に取り組んでいる。
 この内製率の低さについて、藤井氏は、金融機関における組織面の課題を指摘する。

 すなわち、フィンテックを新たなビジネスと捉えたときに、「技術の側面と先端のビジネスモデルを正しく理解し、外部企業との連携や事業化を強力に推進する組織や人材が不足している」という課題だ。

 この課題は、銀行がフィンテック企業と協業する際に、相手先を評価する「評価軸」を持っていない問題につながる。

 これがないと、有効な協業先を見つけ、シナジー効果を発揮していくことが難しくなる。こうしたことから、「先端の技術を追いかけているエンジニアの方にもどんどん金融に目を向けてもらうことが重要です」と藤井氏は語る。

先を見据え、仮説を立てる経営者はブレない

 では、書籍を通じて、読者である経営層にはどんなメッセージを届けたいのか。

 吉沢氏は、「フィンテックは巨大な産業を作る可能性を秘めている」と述べる。たとえば、グーグルは検索エンジンから検索連動型広告を発明し、「これによってデジタル広告市場の規模は数兆円規模までスケールした」が、こうした新たな市場の創出、拡大の可能性を最も秘めている領域の1つが、金融だという。

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インクルージョン・ジャパン株式会社 取締役 吉沢康弘氏
1976年生まれ。東京大学工学系研究科機械工学修了。P&G、コンサルティング・ファームを経て、ライフネット生命(当時、ネットライフ企画)の立ち上げに参画し、おもにマーケティング、主要株主との新規事業立ち上げに従事。同社上場後、インクルージョン・ジャパン株式会社を設立し、ベンチャー企業への立ち上げ段階からマーケティング・事業開発で支援することに従事。同時に、大企業へのベンチャー企業との協業をメインとしたコンサルティングを行っている。本書の特別記事の執筆を担当。
「たとえばフィンテックの隣接領域にはPropTech(プロップテック)、すなわち不動産テックがあります。不動産を流動化し、テクノロジーを生かして取引の形態を変えれば、今までになかった新たな金融関連のマーケットが創出できると思います」(吉沢氏)

 こうしたアプローチは、これまでの新規事業創出とは明確に異なる。いわゆる業種における「xTech(クロステック)」の流れは、「新たな市場を作り、スケールする点で大きなインパクトがある」ことに目を向けてほしいということだ。

 藤井氏も「書籍でインタビューに応えた先進的なビジネスを担う経営者に共通するのは、視線が一歩も二歩も先を見ていることです」と語る。

 実際に、テクノロジーの進展によって、たとえば、自動運転や量子コンピューティングのように、5年前には20年先の技術だと思われていた先進技術が、すでに実用化を見据えたレベルにまで具現化されてきている。

 経営者も、そうした動向を見ながら自分なりに仮説を立て、「『こういう世界がもうすぐ実現されるはずだから、こういう取り組みを行っていくのだ』という信念を持った経営者は、ブレることがない」。藤井氏は、先進的な考えを持った経営者の行動パターンについてこのように述べた。

銀行員のキャリアパスも変わる

 これからの時代、銀行で「従来の金融IT」に携わってきた人は、どのようなキャリアパスを描けばよいだろうか。

 藤井氏は、「イノベーション創出によって競争力を高めなければ日本の将来はないという危機感が、フィンテックの動きを後押ししている」とした。

 このように前置きした上で、これから金融分野でゲームチェンジが起き、新たなルールでゲームを行うとなったときは、「現状の仕組みを前提にして、何から、どう変えていけばよいかを理論的に考えていくことが重要」と説明する。

 その際のポイントは2つある。

 1つは「新しい宿を探す」ことだ。どの領域を「自分の居場所とするか」という視点だ。

【次ページ】金融機関とフィンテック企業の「競争」が本格化するか
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