- 会員限定
- 2019/11/20 掲載
【予測】なぜ米銀は「邦銀の4倍」稼げる? 世界の金融機関の“今”から見えるコト
ドイツ銀行はリストラに追われ、HSBCは香港を強化
英金融大手HSBCホールディングスの2019年7~9月期の連結決算は減収減益となった。一般企業の売上高に相当する収入は前年同期比3.2%減の133億5,500万ドル(約1兆4,550億円)、純利益は同15.9%減の37億9,500万ドルと利益が大きく落ち込んだ。全世界的な低金利によって、融資の利ざやが稼げない状況となっているほか、債券取引も低調で同行には大きな逆風が吹いた。部門別の利益では、個人向け金融サービス、商業銀行、資本市場など、プライベートバンク部門を除く、ほぼすべての部門で減益となっている。
地域別では欧州が赤字となり、北米や中東では利益を減らしているが、アジアだけは堅調で、全体の利益のほぼすべてをアジアが稼ぎ出している図式だ。
一方、ドイツ銀行はさらに厳しい状況に追い込まれている。
同行が10月30日に発表した2019年7~9月期決算は、8億3,200万ユーロ(998億円)の赤字だった。前四半期に続く、2四半期連続の赤字決算である。
同行は株式部門から撤退するなど、経営のスリム化を進めており、7月には1万8000人の人員削減計画を発表したばかり。業務の縮小にリストラが追いついておらず、リストラ費用が利益を圧迫する状況が続く。
ドイツ銀行は欧州を中心にビジネスを展開しているが、HSBCは英国に本社を置いているものの、主力銀行は香港上海銀行である。香港では民主化デモが続いており、一部では経済が混乱しているとの報道もあるが、同行の業務は今のところ堅調である。
両行の決算を見ると、低金利の影響は欧州で大きく、アジアにはあまり及んでいないという状況が見て取れる。
香港上海銀行は、アジアで台頭している高額所得者を囲い込むため、プライベートバンク部門を増強しているほか、ネット銀行に対抗するため、口座維持手数料を無料にするなど、攻めの姿勢も見られる。HSBCは今後、さらにアジア・シフトを強化していく可能性が高い。
景気低迷にもかかわらず絶好調な米銀
低金利が市場をむしばむという点では米国も状況は似ているはずだが、不思議なことに米銀の業績は絶好調である。JPモルガン・チェースの2019年7~9月期決算は、収入が前年同期比7.6%増の293億4,100万ドル、純利益が同8.3%増の90億8,000万ドルの増収増益だった。バンク・オブ・アメリカも一部事業に関する減損で全体の利益は減ったが、基本的には順調に業績を拡大しており、純利益は57億7,700万ドルとなっている。
米銀の業績は驚愕すべき水準であり、日本のメガバンクと比較するとそのスケールの大きさがよく分かる。
JPモルガン・チェースの四半期利益は90億8,000万ドルだと述べたが、この金額は日本円で約9,900億円になる。一方、邦銀トップの三菱UFJフィナンシャル・グループの1年間の当期利益は約8,700億円である。
つまりJPモルガン・チェースは、三菱UFJが1年間かけて稼ぐ金額をわずか3カ月で稼ぎ出してしまうのだ。
米銀は、手数料収入も債券などのトレーディング収益も増加しており、数字を見る限り順風満帆である。総崩れになっている欧州と比較するとあまりの違いにあ然としてしまう。
そもそも欧州の金融機関が厳しい環境に追い込まれているのは、量的緩和策が長く続き、低金利が慢性化していたことに加え、米中貿易戦争の影響によって世界経済の成長が鈍化したことが原因である。
つまり、一連の環境悪化の震源地は米国と中国であり、欧州は直接関係しないはずだが、現実はまったく逆になっている。
一連のちぐはぐな状況について、どう解釈すれば良いのだろうか。
【次ページ】リーマンショックを引きずる欧州。米国の1人勝ちは長くは続かない?
PR
PR
PR