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  • 2019/10/28 掲載

レガシーシステムとフィンテックの共存戦略、ITガバナンス視点でレガシーを活用する

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経済産業省が2018年9月に公表したデジタルトランスフォーメーション(DX)レポートにおいて、DXの「足かせ」、はたまた「技術的負債」と呼称されているレガシーシステムの多くは、今も各金融機関の基幹系システムとしてサービスの中核を担っている。その一方で、フィンテック活用による新たな価値創出も求められており、各金融機関はレガシーとフィンテックとの共存を当面のあいだ余儀なくされる。ここでは、その共存の在り方についてITガバナンスの視点から検討し、レガシーを「負債」としての側面でなく「資産」として活用できる可能性も探る。
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本当にレガシーを一掃するべきかについては、慎重な検討が必要だ
(Photo/Getty Images)

レガシーはすべからく一掃すべきか?

 経済産業省が2018年9月に公表したデジタルトランスフォーメーション(DX)レポートにおけるレガシーシステムにまつわる論点は、「2025年の崖」という言葉のインパクトもあり、IT関係者のみならず経営者からも耳目を集めている。

 レポートの要旨を筆者なりにまとめると、既存システムのレガシー化(老朽化やブラックボックス化)が進展し、システムの保守に必要となるコストや人材の負担が足かせとなり、DXに対応できず2025年頃に窮地に陥る、といった具合である。

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 金融機関にある基幹系システムのすべてがレガシーというわけではないが、老朽化などの課題はどの金融機関にも内在している。実際に、システム保守契約の期限切れを見越したシステム刷新などが多くの金融機関にて進められている。

 しかしシステムの刷新には膨大な時間とコストが必要となり、失敗事例も少なくない。刷新が成功したとしても、出来上がったシステムは環境変化に取り残されていたということもあり得る。

 DXレポートにおいても、既存システムを仕分けするうえでの選択肢に「塩漬け」が含まれていることから、必ずしも「レガシーの刷新」が唯一解ではない。

本当にレガシーは「負債」でしかないのか

 DXレポートはすべてのレガシーを経営の足かせとなる「技術的負債」と定義しているわけではないが、全体の論調としては「レガシー=負債」ととらえられている。「負債」には将来的な弁済が必要という感覚があり、危機意識を喚起する点では良い表現だろう。

 ただし、負債(貸方)の側面だけに目を奪われてしてしまうと本質を見失う。たしかにレガシーを借方の資産(ハードウェアやソフトウェア)として捉えると、すでに償却済で価値はゼロかもしれない。

 しかし、帳簿上の資産という見地から目線を広げるとどうか。やや古い実証データだが、IT投資においては、ハードウェアへの投資額を1とすると、業務プロセスの変革や人材教育など「無形資産」への投資額が9であり、この9への投資が企業の生産性向上を支えているという (注1)。

注1:「インタンジブル・アセット」(エリック・ブリニョルフソン著、CSK訳・編)。15年前の本ではあるが、レガシーシステムが作りこまれた時期とも重複しており、その点でも参考としている。

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(目に見えにくい)無形資産への投資の価値が9割を占める

 「レガシー=負債」とのみとらえることは、このような無形資産の存在から目を背けてしまうこととなり、企業にとって大きな損失となる。レガシーの刷新が難しい局面であっても、このような無形資産を活用することにより、顧客価値を生み出し続けていくことは可能となる。

 さらに言えば、このような無形資産に目を向けずに刷新をしても、それはまた新たなレガシーを作り出すだけである。性急な刷新を志向せず、レガシーとフィンテックとの共存を図るというのも、現実的な解の1つではないか。

価値創出を実現する=ITガバナンス

 レガシーとフィンテックの共存戦略を考えるうえで、筆者はITガバナンスの考え方を取り入れることを提案したい。ITガバナンスにはさまざまな定義があるが、グローバルのITガバナンスフレームワークである「COBIT」では、「ステークホルダーのニーズに基づき、効果の実現、リスクの最適化、資源の最適化により価値創出を果たすこと」がITガバナンスの目的であると定められている。

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COBITで定められたITガバナンスの目的

 当然、レガシーの全面刷新により、価値創出を図る一気呵成(かせい)のアプローチも考えられる。しかし、効果の実現、リスクの最適化、資源の最適化の3要素に沿って考えた場合、レガシーとの共存についても、価値創出の観点から有効な選択肢となり得る。

【次ページ】レガシーでも「効果の実現」は可能
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