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- 2024/09/27 掲載
日本はなぜ「給与の透明性が低い」のか? 世界で進む「公開義務化」の流れ
欧米で進む給与の透明性に関する法改正
給与の透明性に関する議論が世界中で高まっている。カリフォルニア州では2023年1月から「Pay Transparency Law(賃金の透明化法)」が発行され、雇用主はすべての求人情報に給与の幅を公開しなければならなくなった。ニューヨーク州では同年9月から求人広告や昇進、異動の公示に最低と最高の年収または時給額の幅を明記することが義務付けられた。米国内ではほかにも、コロラドやコネチカット、ネバダなどの各州が同様の法改正を実施している。ニューヨーク州の法は、個人契約を含む従業員数4人以上の企業に適用。これに従わなかった企業は警告と30日の是正猶予期間が与えられるが、それ以降は罰せられる。また権利を侵害された労働者はニューヨーク市の人権委員会を通じて訴訟を起こし、雇用主側に追加制裁を加えることができる。
また欧州では2023年4月にEU賃金透明性指令が採択され、加盟国は2026年6月までに国内法令に制定しなければならない。
こうした欧米での動きは、第一義的にジェンダー間の賃金格差をなくすためだ。統計によると、EUでは平均時給にして女性の賃金が男性よりも13%低いことがわかっている。雇用主のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏った見方)への認識を高め、労働者が同一価値労働同一賃金を受ける権利を強化する目的もある。
出遅れているアジア、話題を扱うスキル不足も
一方、アジア地域では給与の情報開示への動きはまだまだ限定的であることが明らかになっている。経営コンサルティング会社のAON(エーオン)がこのほどアジア地域で実施した2024年の調査報告書によると、調査対象の350社のうち同一賃金分析を実施している組織は62%で、そのうち同一賃金を実施する戦略のある組織は65%にとどまっている。
また、80%の組織が給与の透明性は重要であると回答しているものの、具体的なガイドラインが欠如していることが足かせとなっていることも事実だ。
日本では2022年7月に女性活躍推進法が改正されたことに伴い、「男女の賃金差異」の情報公開が義務化(常用労働者数301人以上の事業主対象)されている。この実効性については後ほど論じるが、これ以外の大きな取り組みは見られず、欧米と比較すると透明性は低いが、実は日本を除くアジア地域のほとんどの国では明確な法規制すらないのが現状だ。
アジアに拠点を置く企業の多くでは通常、同僚間での給与情報の共有が奨励されておらず、その旨雇用契約書に記載されていたり、暗黙のうちに禁止されていたりすることもわかっている。
アジアでの給与の情報公開が進まない理由には、文化的規範や賃金慣行やプロセスが未熟である点が考えられる。
これに加えて、アジア全体で見ると人材市場そのものが動的で変動しやすく、雇用主は競合に勝つため、優秀な人材にプレミアムを支払う傾向があることも背景にあるという意見もある。
さらには、アジア地域の特性として経営陣の習熟度不足や、給与などといったセンシティブな会話を取り扱うスキル不足も指摘されている。 【次ページ】アジアの84%で給与情報は「社内限定」「社外秘」
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