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- 2024/07/01 掲載
潜在成長率とは何かをわかりやすく解説、政府も多用する「日本経済まるわかり」指標
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
潜在成長率とは何か
潜在成長率とは、資源が完全に利用された場合に達成可能なGDP(国内総生産)の成長率のことである。生産関数(労働と資本によってどのように生産活動が行われるかを示す式)を推計し、労働と資本がどの程度利用可能かを推定することによって潜在成長率を推計することができる。潜在成長率の見通しは、金融政策、年金財政の長期的な見通し、財政収支見通しなどについて重要な役割を果たす。また、エネルギー長期計画などとも密接な関わりがある。日本経済の潜在成長率については、いくつかの推計がなされている。
日本銀行調査統計局の試算値によると、潜在成長率は1980年代後半に4%を超えていたが、その後傾向的に低下し、1990年代後半から2005年ごろまでは1%程度になった(図)。
2010年ごろにマイナスとなったが、その後回復して、2014年には1%程度にまで上昇した。その後再び落ち込んでからやや回復し、2023年度下半期には0.66~0.68%となっている。
金融政策との関係:マイナス金利の“異常さ”が分かる
潜在成長率の推計が重要な意味を持つのは、まず金融政策だ。金利をどの程度の水準に設定するかという問題に密接に関わっている。経済学では、「中立金利(注)」という概念が考えられている。実際の金利がこれより高ければ、金融政策は引き締め的であり、低ければ緩和的であるとされる。そして経済理論によれば、一定の条件の下で、自然利子率は潜在成長率に等しい。
したがって、潜在成長率と物価上昇率が与えられれば、中立金利の名目値が分かり、これを金融政策の目安とすることができる。
たとえば、実質潜在成長率が1%で、物価上昇率が2%であれば、名目中立金利は3%となる。政策金利をマイナスの値に設定することは、物価上昇率がゼロで、しかも実質利子率がゼロかマイナスでないと正当化できないものだ。
その基準に従えば、日本ではこれまで10年間以上にわたり、異常な緩和が続いていたと言わざるを得ない。
また潜在成長率は、政府の財政再建計画とも密接な関係がある。
財政再建計画との関係:PB黒字化の可能性が分かる
政府の財政再建計画は、基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB、国債関係の収入と支出を除く財政収入と支出)の均衡を達成しようというものだ。小泉 純一郎内閣の時代に、「PBを黒字化する」という目標を掲げた。それ以降、毎年、財政収支の見通しが発表されている。PBの均衡化には、税収が将来どの程度になるかが重要な意味を持つ。そしてその推計には、潜在成長率の見通しが重要な意味を持つ。
政府の財政収支試算では、2つのケースが想定されている。
第1は、「ベースラインケース」で、全要素生産性(TFP)上昇率が直近の景気循環の平均並み(0.5%程度)で将来にわたって推移するシナリオ。最新の推計では、潜在成長率は2024年度で1.0%、2033年度で0.4%だ。中長期的に、実質・名目で0%台半ばの成長となる。
第2は「成長実現ケース」で、TFP上昇率がデフレ状況に入る前の期間の平均1.4%程度まで高まるシナリオ。潜在成長率は2024年度で1.0%、2033年度で1.7%となる。中長期的に実質2%程度の成長となる。
後で述べる公的年金の見通しをはじめ、エネルギー基本計画などさまざまな長期計画や長期見通しで、以上の試算が参照されている。
しかしPBの黒字化は、これまで一度も実現したことがない。政府は2018年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2018)で、2025年度のPBの黒字化を目指すとしたのを最後に、目標の時期は明示していなかった。
6月21日に閣議決定された2024年度の骨太方針では、PBを2025年度に黒字化する目標を3年ぶりに復活させた。
ただし、内閣府の1月の試算では、成長実現ケースでも2025年度のPBは1.1兆円の赤字だ。だが、「2025年度のPB黒字化が視野に入る」としている。 【次ページ】公的年金との関係:年金財政に「問題なし」は当然か?
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