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窓口業務などの大幅縮小など、銀行がテクノロジーによって受けている影響は計り知れないものがあります。アップルやアマゾンなどのメガテックも相次いで新しい金融サービスを提供しています。いずれ銀行や証券、保険会社はなくなってしまう運命にあるのでしょうか。ここでは、山本康正氏が著書『
世界最高峰の研究者たちが予測する未来』で考察したアップルの思惑・戦略を紹介しましょう。
アップルが30秒で開設できるスマホ銀行をスタート
金融業界における大変動は、アップルが牽引しています。中でもいま最も注目すべきトピックは、2023年の4月17日からアメリカでサービスの提供をスタートした、アップル貯蓄銀行口座サービス。正式名称は「Apple Card Savings」です。
インフレの傾向を反映して、金利は4.15%から開始。瞬く間にユーザーから支持され、サービススタートからわずか4日ほどで、預金額は約10億ドル近くを達成しました。
そもそもアップルが金融サービスに参入したのは、今から10年ほど前の2014年、Apple Payを発表したときまでさかのぼります。Apple Payはいわゆる「〇〇ペイ」に近い存在ですから、スマホをかざすことで、決済ができます。
しかし、こういった電子決済サービスに対応していない店も少なくない。そこで2019年、クレジットカードサービス、Apple Cardを発表します。2022年始めの時点での利用者は、およそ670万人という規模で、私もサービスローンチ後は、すぐに入会。アップルらしいデザイン性に富んだ、スマホではない、リアルなチタン製のカードが印象的です。
そして今回、本丸とも言える金融事業、口座開設に踏み切りました。2023年前半に起きた、シリコンバレー銀行やファーストリパブリック銀行などの破綻の中、資金の移動先を考えていた人もいるでしょう。すでに大手に銀行口座を持っている人、特に大人たちは、他の金融サービスの利率なども考慮すると、金利に対してはそれほど敏感に反応しなかったかもしれません。
一方で、若者は異なります。特に、アメリカの若者は日本とは異なり、学生ローンを組みながら学校に通っている人たちが大勢いますから、少しでも高い金利の口座に入れたくなるのが本音だからです。
しかも、まだ銀行口座をそれほど持っていないであろう若者にとって、たった30秒で難しい審査など必要なく、スマホで簡便に口座が開設できることは、大きな魅力に映るはずです。
なぜ、これまでの日本であれば数日かかる銀行口座の開設が、貯蓄口座とはいえわずか30秒でできるのか。
それは、Apple Cardを持っていることが条件であるから。iPhoneというデバイスを介しているからです。
スマホは個人情報の塊です。そのため、指紋認証などのセキュリティが施されており、誰がそのスマホを保有しているのかなど、個人認証の信頼性も極めて高い。クレジットカードという与信、スマホという高セキュリティなデバイス。この2つをかけ合わせることで、わずか30秒での貯蓄口座開設を可能にしているのです。
申込者がすることは、日本で言うところのマイナンバーのような、ソーシャルセキュリティーナンバーを打ち込み、規約の同意ボタンを押すだけ。
もうひとつ、特に若者がアップル銀行を支持する理由があります。一般的に銀行の各種サービスは、ウェブサイトなどにログインしないと情報が分かりません。
しかし、アップル銀行の場合は、金利の振込などのお知らせをプッシュ通知でくれます。そのためユーザーは、面倒なログインをしなくとも、金利が入ってくることを確認できる。この手間の省略も、評価されている理由でしょう。
そして、アップルがデザインしたUIがシンプルで使いやすい。特別なアプリをダウンロードすることなく、iOSに付帯。スマホ内のApple Cardに組み込まれ、ウォレットにも紐づいており、挙動もとてもスムーズです。
【次ページ】スマホ1台で完結、メガテックの「金融支配」は時間の問題
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