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  • 2023/01/19 掲載

謎の新業態「中立的アドバイザー」とは? 新NISAとともに政府が「推す」理由

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政府は、金融機関の利害から離れた視点に立ち、家計のアドバイスを提供する新たな業態「中立的アドバイザー」に関する制度体系の構築に向けて動き出しました。新設する公的組織がファイナンシャルプランナー(FP)資格保有者などのうちから適任者を認定し、一部個別商品の言及が認められる投資助言業の特別枠も新設する方針です。一方、中間層向けに特化したアドバイス業務がビジネスとして成り立つのか、なり手が十分に存在するのかを心配する声も聞こえてきます。課題が山積する新業態を政府が推す狙いはどこにあるのか、議論の経緯を振り返りつつ考えます。
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謎の新業態「中立的アドバイザー」とは? 政府が推す狙いを解説
(Photo/Getty Images)

個別商品の言及を解禁へ

 「中立的アドバイザー」に関する今後の制度整備に向けたおおまかな方針は、22年11月に政府の新しい資本主義実現会議が決定した資産所得倍増プランと、翌12月に首相の諮問機関である金融審議会の作業部会、顧客本位タスクフォースが取りまとめた報告書で示されています。

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図表1:アドバイザーは金融機関と家計との間に位置付けられている

 プランと報告書では、①金融教育に特化した公的機関「金融経済教育推進機構」(仮称、24年に設置予定)がFP資格保有者等のうちから、中立的な立場でアドバイスが提供できると見做される人材を「認定アドバイザー」として公認する、②つみたてNISAやiDeCoの対象商品に限って個別銘柄の言及を解禁する投資助言業の特別枠を設置する──といった方向性が提示されています。

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図表2:中立的アドバイザーと金融経済教育推進機構の関係


 そもそも、なぜアドバイザーに関する制度整備が俎上に載ったのか、ここで簡単に経緯を振り返りましょう。

 まず議論の前提として、岸田政権が掲げる「資産所得倍増」を実現するためには、政府がかねてから国策として推し進めている「貯蓄から投資(資産形成)へ」の流れを勢いづける必要がある、という考えがあります。

 投資初心者が資産形成への一歩を踏み出すためには、金融システム全体に対する信頼感の醸成が不可欠です。金融庁は近年、証券会社や銀行に対し、「顧客本位の業務運営」(金融機関やその従業員ではなく顧客の利益こそを優先する経営、営業上の理念)の徹底を促してきました。ただ、一部の事業者で典型的な高リスク商品である仕組み債の販売過熱がみられるなど、顧客本位の浸透は道半ばといわざるをえません。

 とはいえ、金融業界に「顧客本位」の理念が完全に行き渡るまで手をこまねいているだけでは、「貯蓄から投資へ」はいつまで経っても到達不能なスローガンのままです。そこで、金融機関から独立した中立的な立場で生活者を導く人材の育成、確保という論点が金融審内で焦点化しました(ちなみにプラン公表前に配信した独自記事でも触れたとおり、この中立的アドバイザーのアイデアについては金融庁による発案ではなく、官邸側からもたらされた経緯があります)。

冷ややかな声も

 FPの実務については現行法上、多くの制約があります。証券外務員や保険募集人などと兼業している場合を除き、貯蓄と投資の配分や取り崩しのタイミングとペースなどおおまかなアドバイスを行うことはできる一方、「○○社が運用する××というインデックス投信」など具体的な商品名を提示することは禁止されています。

 具体論に踏み込んでアドバイスするためには金融商品取引法で規定される投資助言業の登録が必要です。が、登録には500万円にのぼる営業保証金(供託金)の支払いが必要で、小規模事業者にはハードルが高すぎるといわざるをえません。

 顧客本位タスクフォースでは、独立系FPなどを念頭に投資助言業の登録要件を条件つきで緩和し、長期保有を前提とした低リスク商品に限定して個別銘柄の言及を解禁すべきだとの意見が上がりました。こうした声を踏まえてプランと報告書には、要件を緩和した特別枠に登録したアドバイザーに限り、つみたてNISAやiDeCoの対象商品に限って具体的なアドバイスを解禁する趣旨の記述が盛り込まれました。

 ただ、課題もあります。金融機関からのキックバックに依存しない、非富裕層向けのアドバイスが果たしてビジネスとして成立するのか、そして肝心のなり手が本当に存在するのかという問題です。

 一般的に、事業者がアドバイス業務を自社ビジネスの中心に位置付ける場合、メインターゲットは実入りの大きい富裕層に偏りがちです。一方、今回の規制緩和で言及が解禁されるつみたてNISAは中間層の利用を想定した制度。まとまったアドバイス料を取り立てることは難しく、ビジネスの持続性を確保する特別な仕組み作りが必要となりそうです。

 もちろん中立的アドバイザーに対し、国が直接的、間接的に資金的支援にするという手もありますが、国民の資産形成のために多額の税金を投入するとなれば本末転倒との反発も起こりかねません。実際、金融審メンバーもこうした批判に対して神経質になっており、報告書を策定する過程では当初の文案にあった「アドバイザーがビジネスとして成り立つよう育成していく」という表現が、委員から上がった懸念の声を受けて最終版で削除されるという出来事がありました。

 加えて、実態として大半のFPが保険募集人や証券外務員などを兼ねているため、中立的な立場にある人材を見つけること自体が困難との指摘もあります。事業者側からは「非金融からの新たな参入は想像しづらく、証券会社OBや銀行OBの受け皿とするのが現実的では」(業界団体幹部)との意見も聞こえます。また、「富裕層向けビジネスを展開する士業が、業務範囲を拡大するために投資助言業の新枠を利用することになる」(プライベートバンク役員)との見方もあります。

 いずれにせよ金融機関と全くつながりをもたないアドバイザーが、中間層のサポートに専念できる環境を整備するという制度理念に沿った人材が確実に集められるかは、現時点で見通せない状況です。

【次ページ】NISA拡充「免罪符」の側面
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