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- 2024/06/11 掲載
なぜグリーンスチールは「GXの要」? 経産省が推す理由
鉄鋼業は「日本の温室効果ガス排出量」の約4割を占める
国立研究開発法人 国立環境研究所が公表している「日本の温室効果ガス排出量データ」によれば、日本の産業部門全体における「エネルギーを起源とするCO2排出量」のうち、2020年時点で実に37%を鉄鋼業が占めているという。カーボンニュートラル実現のためにはこの分野における脱炭素化の取り組みが不可欠だと言える。
この鉄鋼業の事業活動の中でも、特に高温に熱した高炉で、鋼材の原料となる「銑鉄」を製造する際の「還元プロセス」において大量のCO2が排出されることが知られている。そのため、その還元プロセスをはじめ、生産過程におけるCO2排出量を削減するための技術開発が大手鉄鋼メーカーを中心に進められている。
こうした取り組みによって実際にCO2排出量を抑えた方式で製造された製品を各企業は「グリーンスチール」として販売している。
松野氏によれば経済産業省においても「鉄鋼業における脱炭素化の推進」は、カーボンニュートラルという国際公約達成を目指す上で極めて重要な施策として位置付けられているという。
「鉄鋼業の脱炭素化は、地球温暖化の問題を解決するという観点からはもちろん重要ですが、同時にモノ作りの基幹産業である鉄鋼業において脱炭素化と競争力強化を同時に目指すことは、脱炭素と経済成長の両立を図る『グリーントランスフォーメーション(GX)』を推進する上でも要となる施策だと言えます」(松野氏)
なお日本の鉄鋼業はグローバル市場において、特に「付加価値の高い鋼材」「高級な鋼材」の分野で高いシェアを持っており、その技術力は世界トップクラスを誇る。
今後もその高い競争力を維持していくためには、これからますます脱炭素に対する社会的な要請が強まっていく中においても、引き続き市場から高く評価される製品を提供し続ける必要があり、そのための技術革新や制度作りが急がれている。
欧州を中心に各地域取り組みが進む「グリーンスチール供給」
一方、海外のグリーンスチールの供給の動向に目を転じると、脱炭素の取り組み全般に積極的な欧州の動きが目立つ。経済産業省でも欧州の動向には常に高い関心を持っているという。「欧州は技術面において、高炉を使わない『直接還元』『電炉』の技術開発を進める計画をいくつか持っていますし、鉄鋼メーカーからは脱炭素をうたった製品がいち早く提供されています。製品の購入先であるユーザー企業もそうした取り組みを支持していますし、政策面においても温室効果ガスの削減施策が不十分な輸入製品に対して課金する制度『CBAM(炭素国境調整措置)』が始動するなど、さまざまな施策が推し進められています」(松野氏)
また、これまで欧州と比べると脱炭素に比較的消極的だと見られてきた米国も、近年では2022年8月に成立した「米国インフレ抑制法(IRA)」において気候変動対策の予算を約3,910億ドル充てるなど、一転して積極的な姿勢を見せ始めており、経済産業省でもその動向に注目しているという。
さらには、日本の鉄鋼メーカーにとって大きな市場であるアジア地域においても、今後はグリーンスチールの需要が増えていくのではないかと松野氏は話す。
「日本の鉄鋼メーカーは中国や韓国、ASEAN諸国などのアジア市場における売上比率が比較的高いのですが、今後はこうしたアジア諸国においても脱炭素やカーボンニュートラルの取り組みが進んでいくことが予想されるため、アジア市場の動向にも注目する必要があります」(松野氏)
このように現時点では国・地域ごとに若干の温度差はあるものの、中長期的にはやはりグローバル市場全体でグリーンスチールの価値は高まっていくだろうと同氏は予想する。
「IEA(国際エネルギー機関)の分析では、2050年時点の世界の鉄鋼市場においては、グリーンスチールはかなり多くのユーザー企業に選ばれるだろうと予想しています。既に欧州を中心にそうした動きは足元で見られますし、今後こうした傾向はますます加速していくものと考えられます」(松野氏) 【次ページ】新技術の開発を進める日本製鉄や神戸製鋼、JFEの状況
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