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日本企業だけでなく、海外企業からも見学を求められるほどの注目企業に成長した日本の自動車部品メーカーがあります。それがスチールテックです。典型的な町工場だったスチールテックですが、2010年度から9期連続の増収、コロナ禍の影響を一時的に受けたものの2022年度には過去最高を記録しました。その大躍進を支えているのが、同社の「人財戦略」です。「人を制する者が勝負を制する」と考え、売上や利益よりも経営資源である「ヒト(社員=財産)」の戦略に軸足を置いて、成果を上げてきました。ここでは、スチールテック 代表取締役社長 出口弘親氏自らが、売上右肩上がりを実現できた「人財戦略」の骨子について解説します。
リーマン危機でも人員拡大、営業・経営より「人財戦略」
スチールテックは、1959年に創業し、現在の主力製品は自動車生産に関連するプレス金型用部品で、社内で一貫生産しています。
私が父の会社「出口鋼商店(現スチールテック)」に入社したのは、1997年です。当時は年商2.5億円、社員数4名の典型的な町工場でした。父の後を継いで社長に就任したのが、2007年。その直後、リーマン・ショックに襲われます。
リーマン・ショックは、日本中の町工場を苦しめました。当社も例外ではなく、売上は急減。4.5億円から半分近くまで落ち込みました。
「堅実に経営するだけでは、この閉塞感を打ち破ることはできない。今までと同じ考え方では、現状維持さえままならない」と、危機意識を覚えた私は、堅実経営から積極経営に転じることにしました。たとえば、多くの町工場がリストラを敢行する中、それに逆行するかのように、「人員拡大による経営の立て直し」に踏み込んだのです。
つまりは、経営の基軸をより「ヒト」に移していきました。リーマン・ショックの経験から、「営業戦略や経営戦略以上に、人財戦略が重要である」ことを理解し、2010年以降は人財戦略に力を入れています。
2012年からは、マシンオペレーターを確保するために「外国人技能実習生」の採用を開始。2013年からは、マネジメント層を確保するために大学卒の新卒採用を開始しました。さらには同年、中国大連に100%出資の現地法人も設立し、設計業務を移管しています。
着実な人員拡大を行い、2009年1月に9名だった社員数は、現在50名です。半数以上が20代の社員で、平均年齢はなんと28歳。厳しい経営状況の中でも中途社員を余剰的に増やし、教育を施してきた結果、それまでの鋼材加工だけでなく、機械加工分野へも進出しています。会社としての歴史は長いものの、次々と新規事業を立ち上げているため、実際にはベンチャー志向の強い会社となりました。
将来を見通した人員の確保と徹底した教育によって、新事業への進出を可能にし、売上を回復できたのです。先ほど述べたとおり、リーマン・ショックで売上は2億円台にまで落ち込みましたが、今では13億円を超えるにまで成長できています。
人材戦略の基本方針は「4つ」
当社は、経営計画書に「人財戦略に関する方針」を明記しています。経営計画書は、当社で働く全社員のルールブックであり、現場・現物・現実に即した社員の行動規範が盛り込まれています。人財戦略の基本方針は、次の「4つ」です。
- 戦略(1):人財戦略がすべての戦略に優先する
- 戦略(2):日本人の採用は大卒新卒総合職を基本とする
- 戦略(3):外国人採用は多国籍化を行う
- 戦略(4):社員教育の量では同業他社を圧倒する
ではこれらの戦略を1つずつ、取り組み内容と併せて説明していきます。
戦略(1):人財戦略がすべての戦略に優先する
私は「機械系エンジニアとして成果を上げることに対し、理工学の素養は問わない」と考えています。「専門性の高い理系人財を採用して、複雑な製品をつくる」のではなく、「入社してきた人財に合わせて、取り扱い製品、生産体制、機械設備を変えていく」「文系出身でも、入社1年目から成果の出せる製品に特化して従事してもらう」ことで、人財の最適化を図っています。
たとえばこれまでに、次のような3つの取り組みを行ってきたことがあります。
【次ページ】売上爆増の秘訣は?「4つの人財戦略」を詳しく解説
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