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さまざまな業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでおり、金融業界においては、オープンAPIによってAPIエコノミーが急速に確立されつつある。デジタル庁が重点課題に掲げる「企業間の取引におけるデジタル化推進」は、2023年のインボイス制度導入を皮切りにシステム間の連携のための標準化が進められ、その先には契約・決済などの企業間取引のデータを活用した「価値の創出」が期待される。新たな金融ビジネスのための次世代取引基盤に向けた課題や展望について、クレジットエンジン 取締役COOの新色 顕一郎氏、GMOあおぞらネット銀行 企画・事業開発グループ CTOの矢上 聡洋氏、ヤマト運輸 執行役員の中林 紀彦氏、WiL Partnerの久保田 雅也氏、デジタル庁の大久保 光伸氏(モデレーター)が語り合った。
※本記事は、日本経済新聞が2021年9~10月主催した金融DXサミット「Financial DX/SUM」の講演内容を基に再構成したものです。
契約・決裁に関するデータ利活用は重要な政策課題の1つ
フィンテック分野において官民連携を担うデジタル庁の大久保 光伸氏は、2021年9月に発足したデジタル庁の取り組みについて、「国民向けサービスグループでは、国民や民間、準公共分野のデジタル化、データの利活用に注力している」と話した。
その中でも契約・決済は、2021年6月18日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」や、同年9月6日に開催された「第1回デジタル社会推進会議」における重要な政策項目の1つとして挙げられる。デジタル庁では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と連携し、データ化され、リアルタイムで把握可能な企業間の契約・決済の実装に向けた全体像(アーキテクチャ)の設計について検討を開始している。
大久保氏は、契約・決裁に関する最新の動向ついて、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(テクノロジー)の観点から紹介した。
政策面では、2023年にインボイス制度が開始され、請求業務の電子化が促進される。また、改正電子帳簿保存法や2026年の約束手形の廃止などによって電子化促進の進んでいくことが考えられる。経済の観点では、巨大テック企業などのプラットフォームによるデータエコノミーの出現が考えられる。
また、社会の観点からは、少子高齢化やSDGsなどのカーボンニュートラル、フードロスなどの社会課題の解決も視野に入ってくる。そして、テクノロジーについては、新たな資金決済システムの更改が想定されている。
大久保氏は「デジタル化に伴い新たなトランザクションが生まれ、リッチデータが生成される。これが企業における新規ビジネス開発やスタートアップにおけるビジネスチャンスにつながるとの気運が高まっている」と話した。
デジタル庁が描く「次世代取引基盤」の青写真
デジタル庁では、次世代取引基盤の検討について「取引上流の契約から下流の決済まで、これまで紙や手作業をベースにした企業間取引のフローをデジタル化し、生産性向上だけでなくデータの集約、新たな付加価値提供の機会を創出することをめざしている」という。
そのために重要なポイントは、(1)国際的な取引標準の適用など、ワンストップ次世代取引基盤の「あるべき中長期的な絵姿」の設計、(2)インボイス制度導入などの状況を踏まえ、発注から支払いまでが電子化される短期的な解決策の検討、(3)中長期的な絵姿のへの移行プロセスの導出、の3点だ。
すなわち、現在、業界ごとに個別最適化している取引基盤の標準化、共通化を進め、短期的にはAPIを通じてEDI(電子データ交換)やインターネットバンキングと連携してデータの利活用を促進していくことを検討する。そして、業界ごとに異なるデータセットを最適化し、企業取引で発生するデータを活用して新たなビジネス創出のためのアーキテクチャを有識者と議論していくということだ。
「課題が顕著になる中で、特に中小企業におけるデジタル化には地域金融機関の協力が不可欠だ」と大久保氏は話す。
「銀行APIやデータの利活用をはじめとする新規ビジネス創出の気運が高まる中で、今後は標準化や技術面での整理に加え、民間企業とオープンにプロジェクトを通じて一緒にユースケースを作り上げていくことが重要なポイントです」(大久保氏)
オペレーションやデータにまつわる「汎用性」の課題
続いて、フィンテックスタートアップや事業会社で新たな金融サービス像を模索する4人が登壇し、大久保氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた。大久保氏は各社の取り組みの中での課題について、「ヤマト運輸はデータドリブン経営を掲げ、幅広くAPIを公開しているが、他社とのデータ連携の課題はあるか」とヤマト運輸の中林 紀彦氏に問いかけた。
デジタル担当の役員を担う中林氏は宅急便のデジタル化を進める中で顕在化した課題を2点挙げた。
1つ目は製造から流通、消費者に届くまでのサプライチェーン全体のデータをつなぐことや、モノ(物流)のデジタル化は自社で進められるが、「契約や決済は相手もあるし法的な問題もあるため自社だけでは完結しない」点だ。契約・決済の領域がデジタル化できればバックオフィス効率化が進むことから、どう取り組むかが課題だということだ。
2つ目は、自社のデジタル基盤ともいうべきヤマトデジタルプラットフォームの整備だ。「API連携を通じてスタートアップ各社とのクイックな協業のベースとなるプラットフォーム整備が重要だ」と中林氏は話した。
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