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  • 2021/06/14 掲載

横浜銀行に聞くCVC設立秘話、王道の施策で目指す「三方よし」とは

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多くの金融機関がベンチャー企業などとの外部連携を進めている。積極的にオープンイノベーションを進めている横浜銀行では、その中心的な施策の1つとして「CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)」にも取り組んでいる。同行は2021年1月、デジタルガレージとともにCVCの投資ファンド「Hamagin DG Innovation投資事業有限責任組合」を立ち上げた。横浜銀行とデジタルガレージのキーパーソンの話を基に、CVC活動の現状や課題、失敗しないための心構えなどを紹介する。
聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

聞き手、構成:編集部 山田 竜司 執筆:吉村 哲樹

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横浜銀行×デジタルガレージによるオープンイノベーション戦略とはどのようなものだろうか

事業連携と投資リターンが両立するCVCを目指す

 横浜銀行は2021年1月、同行が進めるオープンイノベーションの目玉施策の1つとして、デジタルガレージとともにCVCの投資ファンド「Hamagin DG Innovation投資事業有限責任組合」を立ち上げた。前編では主に横浜銀行の立場から、同行のオープンイノベーションやCVCの活動について紹介した。後編となる今回は、横浜銀行のパートナーとしてCVCの投資や運用に当たるデジタルガレージの担当者に、取り組みの背景や意義について聞いた。

 同ファンドの運営は、デジタルガレージグループにおいて投資事業を担うDGインキュベーションが担当する。投資の責任者を務めるのは、同社 取締役の前川 雅彦氏だ。「国内最大の地方銀行である横浜銀行と組んでファンドを立ち上げること自体が、他のCVCとの大きな差別化要因になり得る」と同氏は評価する。

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DGインキュベーション
取締役
前川雅彦氏

 同時にこれまで長年に渡って投資のプロとして活動してきた経験から、CVCにおける「投資としてのバリュー」もぜひ追求していきたいと意気込んでいるという。

「従来のCVCの大半は事業連携に重きを置いており、投資のリターンはあまり重視されてきませんでした。『事業連携と投資は両立しない』という声も聞かれますが、個人的にはそれは言い訳に過ぎないと考えています。今回の横浜銀行さんとのCVCでは、ぜひ事業連携と投資のリターンを両立させる予定です」

 また、今回のCVC設立のデジタルガレージ側のキーパーソンには、DGインキュベーションでマネージングディレクターを務める松田 信之氏も挙げられる。同氏は三菱総合研究所に在籍時に、三菱UFJファイナンシャル・グループ(MUFG)が実施したアクセラレータプログラム「MUFG Digital アクセラレータ」を手掛けている。大手金融機関とベンチャー企業の連携や協業に関する豊富な知見を持つ存在だ。

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デジタルガレージ
オープンネットワークラボ推進部長
松田信之氏

 松田氏は「金融機関とベンチャー企業のものの考え方や価値観は、サービスの品質1つをとっても大きくかけ離れています。そんな両者が直接連携を図る場合、さまざまな苦労を伴うのが実情です」とこれまでの経験から指摘する。

 さらに今回のCVCの意義については「横浜銀行と投資先のベンチャー企業との間に、われわれのようなビジネスと投資の両方を知る立場の者が入ることで、互いのギャップをうまく埋めていけるのではないかと考えています」と説明する。

成否を分ける「チェンジマネジメント」

 CVC事業をはじめとした横浜銀行の各種のオープンイノベーション施策を率いるコンコルディア・フィナンシャルグループ 事業戦略企画室 室長 田中 将氏は、銀行がこのような取り組みを通じてデジタル化や変革を成し遂げるには「自らも積極的に変化して、スタートアップ企業のカルチャーに歩み寄る努力が必要だ」と述べる。

 「多くの銀行では、どうしても『今あることを正しくやる』ことが重視されます。こうした企業文化や行員の意識を、ベンチャー企業とのいろいろな取り組みを通じて『走りながら考える』『変化を楽しむ』というふうに変えていければと考えています」。同氏は、そうした変化が「結果的にはお客様へ提供するサービスの価値や当行の企業価値の向上につながっていくと信じています」と力を込める。

 松田氏も同様に、CVCやアクセラレータプログラムのような活動が実を結ぶためには「企業の“外”に向けて発信するだけでなく、企業の“中”をうまく動かしていくことが大事」と指摘する。

 アクセラレータプログラムでは、社外向けの派手なイベントを開催してスタートアップ企業を集め、その場で事業連携のパートナーを探すことが多い。ただ、まったく異なる文化やバックグランドを持つ者同士がいきなり現場レベルで連携しようと思っても、大抵の場合はうまくいかず、結局頓挫してしまうのが現状の課題だと言われている。

 こうした事態を防ぐには、外向けの施策をきっかけにして、そこから自社の内部を少しずつ動かしていき、実のある連携や協業へとつながるよう少しずつ「地ならし」していくしかないだろう。

 これはまさに「言うは易く行うは難し」だが、今回のCVCでは、田中氏をはじめとする「銀行の中の改革者」と、デジタルガレージ側でスタートアップ支援に関して豊富な知見を持つメンバーが当初からそろっていた。

 松田氏は「そういうメンバー同士が密接につながることで、きっと成果を上げられるのではないか」と期待を込める。一方、前川氏は投資家としての立場から「事業連携の確度にあまりにこだわりすぎてしまうと、かえって身動きが取れなくなるかもしれない」と持論を述べる。

「スタートアップ企業の事業規模からすると、横浜銀行のような大手金融機関の事業に本当にインパクトを与えられるような案件は決して多くありません。そのため、将来の事業連携の成否を精緻に見極めようとするより、事業連携と投資リターンがある程度見込めそうなところにある程度広く投資しながらきちんと支援していけば、その中から自ずと成功案件が生まれてくるはずです」(前川氏)

【次ページ】CVC設立自体が目的ではない、目指すべきは「三方良し」関係性
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