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この3月、金融庁と日本銀行(日銀)は連名で「金融庁・日本銀行の更なる連携強化に向けた取り組み」を公表した。金融機関にとっては目の上のたんこぶ扱いされてしまう場面もある金融庁検査と日銀考査だが、同資料では今後、金融庁と日銀が連携して金融機関向けモニタリングを実施することで、金融機関の負荷軽減を目指すという方針が示された。では金融庁と日銀のモニタリングの新たな姿とはどんなものなのだろうか。
なぜ金融庁検査と日銀考査があるのか
金融庁の検査と日銀の考査は、いずれも「オンサイト(立入検査)」「オフサイト(各種ヒアリングや資料提出依頼)」という異なる手法を組み合わせた点検を実施している。そもそも金融庁は業法に基づき金融業を営む金融機関の指導・監督を目的として設置された省庁である。そのため、業法に沿った検査・監督を権限として行使している。
他方で日銀は、金融システムの健全性を確保することを目的とした日銀法・考査契約に基づき「決済上のリスク」を主として点検項目として掲げている。
同じように見えても検査の目的がそもそも異なるのである。
検査官が足りない金融庁
金融庁では既にかつて名を馳せたM氏のような名物検査官は少なく、機械的なモニタリングにとどまっているとの声を聞く。これは、森 信親長官時代において、定期検査を実施せず、特別検査中心の体制に衣替えしてきたためだ。
特別検査では、外部から裁判官や検察官、弁護士、さらにはITの専門家まで招聘し、チームを編成して臨むといった要員編成となる。これは、特定分野の専門家が必要なほど検査対象のテーマが高度化してきたという理由だけでなく、指摘事項そのものが相手先金融機関(及び関連する立ち入り先企業)との法的論戦になることを見据えた対応でもある。
指摘内容が相手先から反発された場合を念頭に、事前に法的根拠などをチーム内で討議し、検査方針を決める、といった対応をイメージするとわかりやすいだろう。
他方、定期検査が見送られてきた結果、オフサイト・モニタリング中心の検査が進んだことで、職員の多くは机上での「点検」作業に従事することとなった。したがって、情報収集が机上で済む一方、「臨検」経験を積む機会が少なくなったことが現在の金融庁での課題とも言われている。すなわち、「熟練検査官の不足」である。
なぜ、このタイミングで金融庁検査と日銀考査の連携強化へと動くのか
これまでも金融庁と日銀では検査・考査結果の完全共有まではいかないまでも、「重複する点検」を極力排除することを目的に、定期的な情報交換と一部データの共有も図るだけでなく、人材交流も進めてきた。
たとえば、日銀が検査官を金融庁に派遣したり、といったことは別に珍しいことではない。また、金融庁は日銀の考査結果をデータの形で閲覧することも可能とされている。
金融庁は日銀に検査結果そのものを通知することはないとされる。一方現場では、日銀の考査担当者が金融機関に対し「金融庁から受けた質問」などについて事前に確認することで、金融庁が既に確認済の調査項目を考査対象から外す、といった運用がなされている。
このように、既に必要な連携は実施している、といった理解がなされていたものの、「さらに金融機関側の負荷軽減を図るべし」、といった「天の声」が金融庁に届いた、というのがきっかけのようだ。
なにしろ、「より質の高いモニタリングの実施と、金融機関の負担軽減に努める」とわざわざ述べるなど、「金融機関の負担軽減」にフォーカスが当たり過ぎているように感じているのは筆者だけではないだろう。
【次ページ】新たなモニタリング態勢の3つのポイント