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IoTによって企業活動そのものがモニタリングされることで、さまざまな新たな価値が生まれている。IoTによって引き起こされた金融領域での変化、製造、保険、建設業界などの国内における先進的に取り組みをまとめると「業界」の区分が意味を成していないことに気づく。
前編に引き続き、「データ」に関わるIoTのスペシャリスト3人に事例と金融機関の役割の変化を聞いた。
企業活動のデータ化で可能になる経済動向の予測
IoTによってデータ活用が進む中、金融機関もデジタル関連組織を設置するなど、イノベーション創出に取り組んでいる。
こうした状況を踏まえ、木村氏は「IoTで設備から収集されるデータをモニタリングしていれば、従来の財務データを集計・分析することなく、業績が把握可能だ」とした上で、「我々は、銀行に対してビジネス化に向けた相談や提案をしている」とi Smart Technologiesでの取り組みを紹介した。
具体的には、同社のIoTプラットフォームiXacs(製造ライン遠隔モニタリングサービス)を企業に月額定額モデルで提供し、その費用を金融機関がある程度負担することで「導入のハードルを下げていく」というものだ。
金融機関にとっては融資先のデータをリアルタイムで把握し素早く各種提案ができるなどメリットがあり、導入先には、プラットフォームの月額費用を下げ、融資の際の金利の優遇が受けられるなどのメリットが考えられる。
松浦氏は、こうした取り組みについて「今のところは構想段階だが、日本で本格的にIoTと金融を組み合わせて経営改革につなげようとする最先端の取り組みだ」と評価する。
「『製造ライン遠隔モニタリングサービス』から得られるデータは、企業の生産活動そのものです。これを発展させると、たとえばデータが広範に集まれば集まるほど、株価や経済の見通しを予測することも可能になるでしょう。つまり、金融機関だけではなく、社会インフラとしての価値につながる可能性があるのです」(松浦氏)
実際に、旭鉄工が製造する部品は「トヨタの国内生産の90%以上に関わっているものもある」(木村氏)とのことで、同社の生産状況をモニタリングすることは、間接的にトヨタの生産台数をモニタリングするのと同じだといえる。
こうしたデータの収集先が増えていけば、主要な経済指標が発表される前に、日本全体の経済動向を、より高い確度で予測可能になる可能性を秘めている。
保険業界で進むIoTのデータ活用
八子氏は、金融分野では「保険業界のIoTの取り組みが比較的早い」と語る。典型が自動車保険におけるいわゆる「PHYD(Pay How You Drive)型」の保険商品へのデータ活用だ。
「Pay How to Drive型」の保険商品は、自動車のセンサーから得られた情報をもとにドライバーの運転状況を可視化し、「急加速や急ハンドルが多い」「速度超過の傾向が高い」など、運転の安全性の指標に基づいて保険料率を動的に変更するものだ。
八子氏によれば、欧米では30%ほどを占め、ある程度普及が進んでいるということだが、こうした商品の普及にも課題があると、八子氏は指摘する。
「監督省庁である金融庁は、保険会社に対してどういうデータで料率を算定したのかという根拠をロジカルに説明することを求めています。このため、保険会社は参入に際して数千台規模の加入者データが必要なのです。こうした規制が、イノベーションを阻んでいる側面があると考えています」(八子氏)
海外の先進事例に目を向けると、IoT融資の事例として、スタンダードチャータード銀行とファーウェイが提携したサービスが挙げられる(現在は休止)。
これは、ファーウェイのオープンプラットフォームを用い、プラットフォームに参加する企業と銀行がAPIを通じて連携し、融資あるいは決済の指示を行うものだ。
松浦氏は、この事例で興味深いのは「エコシステムレンディング」(エコシステム融資)だと語る。
「あるプラットフォームがエコシステムを形成し、そこに1つのビジネスの“流れ”が生まれます。これにより、エコシステムのどこに資金需要があるかが可視化され、それに伴い資金提供のあり方も変わります。エコシステムごとに最適化された融資をする点がポイントです」(松浦氏)
松浦氏は、このように銀行の与信ビジネスが変わる可能性を指摘する。
【次ページ】建設業界における金融との連携事例