- 2024/11/29 掲載
世界最大級のフィンテックイベントはなぜ盛り上がる? 国家を巻き込んだ「仕掛け」を解説(2/3)
チーフフィンテックオフィサー設立のGFTNとは?
開会の冒頭で発表されたのがGlobal Finance & Technology Network(GFTN)の設立であった。発表したのは、SFF開始の2016年から今春勇退するまでずっとMAS(Monetary Authority of Singapore)の長官の任にあったラヴィ・メノン(Ravi Menon)氏である。同氏が会長に就任し、SFF成功の立役者と言われるMASの現職チーフフィンテックオフィサーであるサプネンディ・モハンティ(Sopnendu Mohanty)氏が2025年2月よりCEOのポジションにつくことが明らかにされた。
MASのSFF運営チームは2021年に独立してElevandiというイベント運営組織が設立されていたが、GFTNはこれを発展的に解消し、4つの戦略的ビジネスを展開することになる。
- GFTNフォーラム:金融と技術に特化したグローバルな会議開催
- GFTNアドバイザリー:イノベーション政策とエコシステムに関する実務者主導のアドバイザリーサービスと調査を提供するナレッジセンター
- GFTNプラットフォーム:特に中小企業向けのデジタルプラットフォームサービスプロバイダー
- GFTNキャピタル:持続的な成長と社会的なプラスの影響をもたらす可能性のある技術スタートアップ向けの投資ファンド
具体的なテーマとして、最も注目されているAIに加えて量子技術についてもとりあげていくことが表明された。その中で、量子コンピューターの実用化はまだ先と予想されるが、耐量子暗号の研究などを考えると、早い段階から取り組む必要がある点が説明された。
今回の発表により、これまでにSFFの運営によって蓄積してきたノウハウとネットワークを活用して、フィンテック領域におけるシンガポールの地位をより強固なものにするとともに、ビジネスとしてアドバイザリー、システムインフラ、投資といった活動を展開していくことを読み取ることができる。
「金融立国」は何に注力しているのか?
GFTNの発表によって、少し影の薄くなった感もあるが、金融通貨庁(MAS)の現長官であるチア・デル・ジュン(Chia Der Jiun)氏の話は、シンガポールのフィンテックへの取り組みに関する方針を説明するものとして注目を浴びた。同氏は、フィンテックの未来を形作る上で重要な要素として、コミュニティ、協力、能力の重要性を強調した。特に、業界の課題に取り組むための協力の必要性を強調した。
さらに国際決済銀行(BIS)が掲げるクロスボーダー決済プロジェクト「Project Nexus」を紹介した他、日本の金融庁も参加している「Project Guardian」についても言及し、さまざまな資産のデジタルトークン化のユースケースを追求することによって、経済的な利益が実現可能であると説明した。
デジタルIDの開発、迅速な決済ルート、および決済スキーム間のシームレスな相互運用性の実現など、長期的な能力向上への取り組みについて述べ、低コストでアクセスしやすく効率的な決済を確保することを目指す点にふれた。
また、国内決済手段における相互運用性の重要性を強調し、併存する複数決済手段の断絶に対処し、加盟店がより幅広い顧客層に対応できるようにしていくと述べた。そして、資産のトークン化については、トークンの標準化、ステーブルコインを含む決済、相互運用可能なインフラ、からなる三層アプローチに焦点を当てていると説明した。ステーブルコインについては、規制フレームワークを導入し、スケールアップの障壁を克服するためにグローバルな銀行と連携していくとしている。
生成AIに関する議論については、MASは慎重でありながらも協力的なアプローチを取っていると述べ、Project MindForgeを通じて、データ漏えいやハルシネーションといったリスクを特定し、責任あるAIの利用に向けたガバナンスの取り組みを進めている。
また、シンガポールがサステナブルファイナンスにおけるリーダーシップを強調し、プロフェッショナルのスキル向上のためのトレーニングプログラム、金融機関の移行計画、およびデータ収集を簡素化するグリーンプリント(Gprnt)のようなツールについても紹介した。併せて、気候関連の開示についても、東南アジアにおける脱炭素化の取り組みをサポートしていくことが強調された。
見逃せない、SFFで発表された「7つのトピック」
SFFを発表場所として多くの新しいサービスや企業間の提携などが公表されているが、ここでは、特に注目すべきものをあげておきたい。こうした発表には、シンガポールが国内での金融ビジネス拡大だけではなく、国際的な決済や金融包摂に力を入れて点が反映されている。・Nium、Partior: リアルタイムの国際送金を可能に
国際送金のフィンテックスタートアップであるNium は、グローバル金融機関など(JPMorgan、DBS、Standard Chartered、Temasekなど)が出資するPartior と提携し、支払いインフラを合理化した。Nium は Partior のプラットフォームで承認された初のフィンテック決済サービスプロバイダーであり、金融機関がリアルタイムでの支払い、クリアリング、決済サービスを、24時間365日、100以上の市場と通貨において利用できるようにする。
・Fexco、Maya: フィリピンで外貨決済サービスを開始
フィリピンのデジタルバンクMaya は グローバル金融サービスグループであるFexco の複数通貨での決済を可能とする動的外貨決済サービス(Dynamic Currency Conversion)を 11万2000 の店舗端末で導入し、国際顧客の利便性を向上させるとともに、2023 年に 540 万人以上の訪問者を迎えたフィリピンの観光経済を支援することになる。
・Blade Labs: 世界初の組み込み型イスラムデジタル金融プラットフォームを発表
シンガポール発でカタールに展開しているBlade Labs は、分散型公開台帳(Hedera)を利用した、世界初の組み込み型イスラムデジタル金融プラットフォームを発表した。この革新的なプラットフォームにより、シャリーア(イスラム法)に準拠した金融サービスをあらゆるビジネスアプリケーションにシームレスに統合することができることになるため、イスラムフィンテックに多大な寄与となるものである。
・StraitsX、Ant International、Grab: ブロックチェーンを活用した越境決済
StraitsXは、アント・インターナショナルおよびグラブと提携してブロックチェーン対応の越境決済を開始し、シンガポールのグラブペイ加盟店間でアリペイ+を使用する観光客のシームレスな資金移動が可能になることを発表した。
・MODIFI: アジア全域の中小企業輸出を促進するための資金を調達
貿易金融などでグローバルに展開しているフィンテック企業MODIFI は、B2B の後払い(BNPL)ソリューションにおけるリーディングプラットフォームとして、SMBC Asia Rising Fund から 1,500 万ドルの投資を発表した。これまでにMaersk などの戦略的投資家の支援を受け、このパートナーシップは、中小企業がアジア全域で国際貿易事業を拡大するためのデジタルソリューションを強化することを目的としている。あわせて、MODIFI と SMBC は中小企業の輸出業者をさらに支援するための覚書(MoU)にも署名している。
・Tencent、Visa: シンガポールで手のひら認証支払いの試験運用を開始
中国のIT大手Tencent と カード国際ブランドVisa は、デジタル支払いのための手のひら認証技術を導入し、シンガポールを実証実験の場所として選んだ。DBS、OCBC、UOB などの銀行からの Visa カード保持者がこの新しい「Pay by Palm」ソリューションを試すことができ、バイオメトリクス支払いの未来を垣間見ることができる。
・PayPay、Alipay+: 日本での提携拡大
日本のQR決済事業者PayPayは、Ant Internationalのクロスボーダーモバイル決済およびデジタル化技術ソリューションであるAlipay+との提携拡大を発表し、日本全国での加盟店ネットワークを拡大している。PayPayを含む日本国内のパートナーと協力することで、Alipay+は3百万以上の日本国内加盟店をグローバルな決済エコシステムに接続し、現地の事業者や決済パートナーが、訪日外国人に対して国内の電子ウォレットを使ったシームレスかつ安全な決済と旅行体験を提供できるようになる。
この提携拡大により、Alipay+のパートナーアプリ(中国本土のAlipay、香港のAlipayHK、中国マカオのMPay、韓国のKakao Pay、Naver Pay、Toss、シンガポールのOCBC Digital、Changi Pay、EZ-Link、マレーシアのTouch 'n Go eWallet、Public Bank BerhadのMyPB、フィリピンのGCashとHelloMoney、タイのTrueMoney、モンゴルのHipay、イタリアのTinabaなど)を利用する旅行者は、PayPayのQRコードをスキャンして支払いが可能になる。 【次ページ】フィンテック関連表彰見る世界の潮流
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