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近年、サステナブルファイナンス(持続可能な社会と地球を実現するための金融)が注目されている。日本国内でも、2020年12月には金融庁がサステナブルファイナンス有識者会議を設置し、推進のための議論が始まったが、実際にサステナビリティファイナンスを実行するには問題も多い。現状の課題や論点について、サステナクラフト(sustainacraft)代表取締役の末次 浩詩氏とインパクトサークル代表取締役社長 /CEOの高橋 智志氏と日本マイクロソフト エンタープライズサービス事業本部 業務執行役員 金融イノベーション本部長の藤井 達人氏、Fintech協会理事の貴志 優紀氏(モデレーター)が語った。
※本記事は、Fintech協会が2022年7月に主催したFintechJapan 2022の講演内容を基に再構成したものです。
持続可能な社会を実現する新たな資金循環の動きとは?
冒頭で、sustainacraft、インパクトサークル、マイクロソフトという3社それぞれのサステナブルファイナンスの取り組みについての説明があった。
sustainacraftは、気候変動問題の解決を推進する気候テック(ClimateTech)領域のスタートアップである。sustainacraft代表取締役の末次浩詩氏は、サステナブルファイナンスの取り組みについてこう語った。
「我々は、植林や森林減少の抑制を目的としたNature-based Solutionsに着目して活動しています。Nature-based Solutionsとは、土壌に固定化される炭素量を増加させる試みです。自然の森林を放置しておくと、明確な経済的な価値を生み出さなくなるため、誰かが保管する仕組みを作ることが必要です。環境問題でしばしば『負の外部性』という言い方がされます。『負の外部性』に対して、カーボンクレジットを発行することが1つの解決策になると考えて推進中です」(末次氏)
カーボンクレジットとは、森林減少を抑制するプロジェクトなどに対して、経済的なインセンティブとして発行されるものであり、事業による「温暖化ガス排出削減効果」を取引できるよう可視化されたものだ。GHG(温室効果ガス)を削減したい企業がカーボンクレジットを購入することで、自社の排出量と相殺する仕組みになっている。
sustainacraftが行っているのは、カーボンクレジットの信頼性を高める活動だ。リモートセンシングの技術を使うなどして、プロジェクトによるGHG削減効果を推定・検証している。
インパクトサークルは、社会インパクト可視化型の投資プラットフォームの構築を目指している企業である。インパクトサークル代表取締役社長 /CEOの高橋 智志氏は、サステナブルファイナンスの取り組みについて以下のように説明した。
「インパクトサークルは、社会インパクト可視化型投資プラットフォームの構築を目指している会社で、第1弾として新興国と日本のインパクトを可視化するファイナンスを提供している会社です。ESG投資としてインパクト投資が注目されています。しかし、社会性が抜群で収益性とスケーラビリティが十分ある事業でも、投融資が行き渡っていない現状があります。この課題解決のために作ったのがインパクトサークルです」(高橋氏)
インパクト投資とは、金銭的リターンとともにポジティブで測定可能な社会的・環境的なインパクトを生じさせる目的で、行われる投資のことである。操業資金さえあれば、働ける人に対して、資金を提供することで就業し、収入が増えて貧困が削減できるといったケースがインパクト投資に該当する。
投資対象は、トライシクルドライバー・四駆タクシードライバー・配送ドライバー・、漁業者・畜産家・農家・店舗事業者などである。このインパクト投資を定量的かつ定性的に可視化して、投資の仕組み作りにチャレンジをしているのが、インパクトサークルだ。
マイクロソフトが2012年から続けている社内炭素税とは?
マイクロソフトは、多岐に渡る分野において
サステナブルファイナンスを実施している企業である。その1つの例が、Azureデータセンターのサステナビリティ施策だ。
「マイクロソフトのコミットメントは4つあります。『カーボンネガティブ』『ウォーターポジティブ』『廃棄物ゼロ』『プラネタリーコンピューター(科学者や政策立案者向けに地球規模の環境モニタリング機能を提供するマシン)』です。Azureデータセンターに関しては、従来型のオンプレミスの典型的なデータセンターと比べると、省電力を実現しています。98%のカーボンフットプリント(製品のライフサイクル全体を通じ温室効果ガスの排出量をCO2に換算すること)の削減が可能で、エネルギー効率も最大で93%の低減が可能と弊社のホワイトペーパーで発表しています」(藤井氏)
データセンターの省電力化・脱炭素化の具体的な例としては、特殊な液体を使ったサーバの冷却方法の開発、データセンターごと海底に沈めて冷却する方法の研究、バックアップ電源のディーゼル発電から水素燃料電池への置き換えなどが挙げられるだろう。
また、より効率的でサスティナブルなデータセンターの建設も進められている。スウェーデンではすでに稼働中で、フィンランドでは建設中だ。
Fintech協会理事の貴志 優紀氏より、「マイクロソフトのトップが発しているコミットメントの意識は、現場まで浸透しているのか」という質問に対して、藤井氏が次のように回答した。
「長年かけて、サステナビリティの意識を高めてきたと考えています。マイクロソフトでは2012年から社内炭素税を事業部門から徴収しており、『事業部門から出る炭素1トンあたり、いくら払いなさい』というものです。徴収したお金をファンドにし、再生可能エネルギーの購入やサステナビリティを改善するプロジェクトへの投資に当てる仕組みで、メリットが可視化されていることも大きいと考えています」(藤井氏)
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