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  • 2022/03/16 掲載

2023年のインボイス制度が追い風? 企業間取引のデジタル化の課題と解決方法を探る

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2023年10月1日から適用税率や消費税額など必要事項を記載した「適格請求書保存方式(インボイス制度)」が開始される予定だ。記載内容をデジタル化した「電子インボイス」活用で、企業間取引のデジタル化の進展が期待される。海外事例や金融業、製造業における取引のデジタル化の課題を踏まえ、電子インボイスを契機とするデジタル化推進への今後の展望について、キャディ 装置事業部 事業部長 幸松 大喜氏、インフキュリオン 代表取締役社長 丸山 弘毅氏、freee 執行役員 社会インフラ企画部長 木村 康宏氏、デジタル庁 国民向けサービスグループ 大久保 光伸氏が議論した。
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企業間取引のデジタル化の課題と解決方法とは
(出典:一般社団法人Fintech協会)

※本記事は、Fintech協会が2021年12月に主催したFINTECH JAPAN 2021の講演内容を基に再構成したものです。

企業間取引のデジタル化推進のカギとなる「Peppol」「ZEDI」

 2021年12月24日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、デジタル庁における重要な政策項目が定められている。その1つである「企業間取引におけるデジタル化推進」については、多くのフィンテック企業が注目している。

 デジタル庁 国民向けサービスグループ 兼 IPA DADC プロジェクトマネージャの大久保 光伸氏は「取引のデジタル化が進むことで、企業間取引における選択の自由、決済手段における選択の自由が広がり、フィンテック企業の活躍が見込まれる」と説明する。

 現在、リテール分野では、銀行APIの普及によるウォレットのサービスが普及してきた。大久保氏は、請求書のやり取りについてホールセール(企業間取引)も同様にウォレットの概念を適用でき、それは電子インボイスの国際規格「Peppol(ペポル)」によって広がるとみているとのこと。

「Peppolは、日本国内の電子インボイスの標準仕様が準拠する国際規格として注目されつつある。リテール分野での銀行APIに関する銀行法改正と同様に、法改正によって企業間取引のデジタル化推進の1つにつながる」(大久保氏)

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デジタル庁 国民向けサービスグループ 兼 IPA DADC プロジェクトマネージャ
大久保光伸氏
(出典:Fintech協会)

 続いて、大久保氏は支払企業から受取企業への振込を行う際、支払通知番号・請求書番号など、さまざまな情報の添付を可能とする「全銀EDIシステム(ZEDI)」について言及した。ZEDIの利用によって「入金消込業務の効率化」などが可能となる。ただ、「システム整備は進んでいるものの、利活用が不十分であり、その点が普及の課題となる」(大久保氏)と指摘する。

 一方、一部のSaaS企業がサービス提供することで、入口から出口、受発注から請求実際までを一気通貫で可能にしたケースもある。大久保氏は「SaaS企業の例」を挙げた上で「商流と金融のデータの融合は新たな価値創出や、取引の業務効率化につながる」「サプライチェーンの最適化が見込まれ、業務の業界での標準化による人材の流動性にも寄与する」などメリットを挙げ、金融業界を全体で取り組むべきとした。

金融業のデジタル化におけるFintech協会の役割

 次に、銀行APIでの事例について、freee 執行役員社会インフラ企画部長でFintech協会 代表理事副会長を務める木村 康宏氏が解説した。電子決済等代行事業者協会の設立にも携わった木村氏は、2016年ごろにフィンテック業界を中心に巻き起こったAPIの議論に関して、欧州諸国での事例を踏まえて提言してきたという。

「金融データをどう利用できるか、ユーザーが自分のデータをどう流通させるのか。それをセキュアで安定した形で実現可能になったことが、電子決済代行業が生まれた成果の1つだ」(木村氏)

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freee 執行役員社会インフラ企画部長/Fintech協会 代表理事副会長 木村 康宏氏
(出典:Fintech協会)

 木村氏はまた、その過程で金融機関とフィンテック企業の事業連携が進展したことも成果であるとし、「人と人の結びつきによる、さらに深い事業連携ができる可能性が生まれ、金融サービス仲介業の創出につながるきっかけになったと思う」と語った。

 銀行や証券、保険会社などのサービスをまとめて取り次ぐことができる金融サービス仲介業について、木村氏は「金融機関同士が連携し、流通するデータを活用することで、ユーザーが金融商品をワンストップで選択可能になる」と指摘する。

 Fintech協会 常務理事を務める 丸山 弘毅氏は電子決済等代行業、金融サービス仲介業について、「Fintech協会では業界横断のあるべき姿をつくる支援や業界が始動する契機づくりができた。企業間取引におけるデジタル化推進でも同様の流れにつなげていきたい」と意気込む。

諸外国と日本におけるデジタル化推進の差はどこにある?

 今後、国内での企業間取引のデジタル化は、どのように進展するのか。木村氏はデジタル化推進における現在の課題について「金融機関のデータがAPIで参照可能になったのは、大きなトピックだが、その前提となるインターネットバンキングの基盤整備については、国外と比較すると普及が全体的に遅れている」と指摘する。

 国外との差については、個人向けインターネットバンキングよりも、企業間取引に活用する法人向けインターネットバンキングの差が大きいという。

「国内でもデジタルへのチャネルシフトは進んでいるが、海外と比べると追いついていない部分もある。APIは連携数によって利便性が高まるため、インターネットバンキングの普及に限界がある現状に苦しさを感じている」(木村氏)

 また、銀行APIの課題として、木村氏はデータを参照する「参照系」のみでなく、振込に活用できる「更新系」の活用が進んでいないと指摘する。その上で、銀行APIの課題を踏まえて、企業間取引におけるデジタル化推進のポイントを考察する。

「Peppolを使って、電子インボイスを送ることは、デジタル化推進の点で重要だ。電子化しないままでインボイスの記載事項を満たした事務を続けていると、中小企業は相当苦しくなる。電子インボイスの普及こそが、企業間取引のデジタル化推進の鍵となるだろう」(木村氏)

 諸外国では、ドイツは少なくとも公共調達に関しては電子インボイスにしていき、フランスも段階的に強制力を持って電子インボイスを適用する旨の発表をしている。

 木村氏は「もちろん日本で同じことができるかといわれると、異論があるだろう」と前置きした上で「何かしらのパワフルな仕掛けがないと、企業間取引のデジタル化のとっかかりはつかめないのではないか」と指摘。上流から下流までのデジタル化を一気に進めるきっかけとして、電子インボイスが重要なパーツになるとの見解を示した。

【次ページ】複雑なサプライチェーンを持つ製造業におけるデジタル化の課題
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