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  • 2021/09/27 掲載

なぜ日本は韓国に追い抜かれたのか? 「デジタル化の遅れ」がもたらしたもの

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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日本と米国、韓国の1人当たりGDPの推移を見ると、1980年代までは、どの国も同じような率で成長した。しかし、1990年代の中ごろに大きな変化が起きた。日本の成長率が低下したのに対して、米国や韓国はそれまでと変わらぬ率で成長を続けたのだ。この結果、日本の相対的な地位が低下した。この原因は、日本が90年代のIT革命に対応できなかったことだ。
執筆:野口 悠紀雄
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日本の低成長は何が原因か?
(Photo/Getty Images)

デジタル化の遅れで、生産性が向上せず

 前回、日本におけるデジタル化の遅れについて述べた。何がこうした遅れをもたらしたのか?そして、なぜこのような遅れが生じたのか?デジタル化の遅れを取り戻すためには、何より先に、これらが解明されなければならない。

 第1の問い、「デジタル化の遅れは何をもたらしたか?」の答えは、明白である。日本の生産性の低迷だ。

 文書をFAXで送るのは、手間も時間もかかる。それをメールで送れば簡単にできる。事務処理をデジタル化すれば能率が上がるのは、明白だ。あるいは、印鑑を押すだけのために在宅勤務を途中で停止して、出社しなければならない。そのための通勤時間は、まったく無駄なものだ。こうしたことが横行している社会で、生産性が高まるはずはない。

 これは我々の日常経験から明らかなことだが、以下で示す統計データにも、そのことがはっきりと示されている。

 ところで、以下で行うのは、国際比較である。国際比較を行うためには、為替レートで換算を行う必要がある。その場合にどのようなレートを用いるべきかは、かなり厄介な問題だ。この点については後述する。

 なお、「生産性」とは「就業者1人当たりGDP」であるが、ここでは、「国民1人当たりGDP」を見ることにする。日本では人口高齢化に伴って就業人口比率が低下するので、就業者1人当たりGDPが変化しなくても、国民1人当たりGDPは低下することに注意が必要だ。

日米格差は広がった

 国民1人当たりGDPを、2017年購買力平価で見よう。これは2017年における購買力を維持できるように為替レートが変化した場合のレートだ。

 IMFの「世界経済見通し」のデータで米国と日本を比較すると、1980年において、日本の1人当たりGDPは2.2万ドル、米国は3.2万ドルだった。つまり、米国は日本の1.4倍の豊かさだった。1980年代を通じて、日本と米国はほぼ同じような率で成長を続けたが、日本のほうが高かった。その結果、1990年には、日本が3.3万ドル、米国が4.0万ドルとなり、日本と米国の比率は1.2倍に縮小した。

 ところがこの頃から、両国の成長率に顕著な差が生じた。米国はそれまでと同じような率で成長率を続け、1人当たりGDPは2000年には5万ドルになった。ところが、日本の2000年の値は3.6万ドル。つまり、1990年からほとんど成長しなかったのだ。

 その後も同じような傾向が続いた。2010年、米国は5.4 万ドル、日本は3.8 万ドルだ。ごく最近の時点に至るまで、この傾向は変わらない。コロナ前の2019年の値を見ると、米国は6.3 万ドル、日本は4.2万ドルであり、比率は1.5倍になっている。

 このように、1980年代には目覚ましい成長をした日本が、1990年代からほとんど成長しなくなったのだ。その半面で、米国は1990年代以降も高い成長率を維持した。

 実際の購買力には、為替レートが円安になったことも影響する。ただし、仮に購買力を維持できるように為替レートが変化したとしても、日米の1人当たりGDPには、上記のような変化があったのだ。これは、経済の実体面にも問題があったことを示している。

急速な成長で日本を抜いた韓国

 次に、日本と韓国を、2017年購買力平価によって比較してみよう。1980年において、韓国の1人当たりGDPは0.55万ドルだった。つまり、日本は韓国の4.1倍だった。1990年には、韓国の値は1.3万ドルになった。したがって、日本との比率は2.6倍に縮小した。

 その後も、同様の傾向が続いている。すなわち韓国の1人当たりGDPが増価する半面で、日本のそれは停滞した。2000年には、韓国は2.3万ドルになり、日本との比率は1.6倍になった。2010年には韓国は3.4万ドルとなり、日本との比率は1.1倍にまで縮まった。

 そして、2018年に韓国は4.2万ドルとなり、日本を追い抜いた。

 韓国の1人当たりGDPの成長率は、米国のそれとほぼ同じだ。日本の成長率が1990年代に屈折して低くなったので、上記のような逆転現象が起きたわけだ。韓国の成長率は今後も変わらず、日本との差が開いていく可能性が強い。

【次ページ】購買力平価を用いる場合の注意
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