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これまで40年以上にわたり、国際送金を行うためのプラットフォームを提供しているSWIFTが、続々と新サービスを発表した。国際送金の領域はイノベーションが起こっている分野でもあり、フィンテック事業者のさまざまなサービスや中央銀行デジタルマネー(CBDC)などさまざな点から注目に値する。今回はSWIFTの新サービスを解説しつつ、国際送金領域の市場を展望する。
SWIFT「クロスボーダー送金の課題」とは
世界中の金融機関をつないで国際送金を行うためのプラットフォームを提供しているSWIFTは、7月27日に小口送金を低コストかつ迅速に行う新サービス「SWIFT Go」の運用開始を発表した。SWIFTがサービスを導入した背景にある国際送金の課題と、そうした課題に対応してきたSWIFTの取り組みを紹介したい。
2020年4月、主要国の金融当局や中銀のメンバーが参加して、国際金融システムについて提言している
金融安定理事会(The Financial Stability Board:FSB) が、主要国会議(G20)に対し、報告書「
Enhancing Cross-border Payments 」を提出した。報告書では、クロスボーダー送金の4つの課題として、(1)高コスト、(2)遅い、(3)限られたアクセス、(4)限定的な透明性、を挙げており、改善の必要性を訴えている。
こうした指摘の背景には、銀行間のクロスボーダー送金において一般的に利用されているSWIFT経由の方法が、世界中の銀行が汎用的に利用できる方式として40年以上前から運用されていることがある。この方法では、参加行の間でバケツリレーのように送金メッセージ伝達を行って、送金ごとに銀行間で資金を決済していることに加え、処理プロセスの途中で進行状況を確認する仕組みがなかった。
指摘に対して、フィンテック事業者を中心とした「新しい国際送金サービスが登場していること」や、「送金経路によっては即日着金のサービスが出現していること」、「ホールセール領域におけるヘビーユーザーは手数料のディスカウントサービスが提供されていること」、などの点から、すべての送金についてこうした課題があてはまる訳ではない、といった意見もある。
とはいえ、国際的な出稼ぎ労働者の増加によって拡大し、いわゆる「ボリュームゾーン」となっている小口のリテール送金において、こうした課題が顕在化していることは間違いない。G20においても、国際間の人材流動性確保、発展途上国の外貨獲得手段確保、国境を越えた購買行動の拡大、といった観点から、クロスボーダー送金の改善が世界経済の発展に役立つテーマとして採り上げられている。
SWIFTの対応
銀行間の国際送金を担う通信ネットワークを提供している
非営利法人SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication) は、世界200カ国以上の1万1000行以上の金融機関と接続しており、FSBの指摘した課題を受けとめる立場にある。
実際にSWIFTは、海外出稼ぎ労働者をターゲットとした送金事業者(例:ウエスタンユニオン<Western Union>、マネーグラム<Moneygram>)、フィンテック事業者(例:ペイパル<Paypal>、ワイズ<Wise>、ペイオニア<Payoneer>、アジモ<Azimo>、ワールドレミット<WorldRemit>)、カードネットワークの送金サービス参入(VISA、Mastercard)といった競争にさらされており、国際送金におけるイノベーションの必要性は以前から
提唱 している。
ユーザーの不満に応える「SWIFT gpi」とは
そうしたイノベーションを重視するSWIFTが、従来の国際送金について、「遅い」「今どこで処理されているのか送金の過程が見えない」「手数料が高い」といったユーザーの不満の声に応える形で、2017年1月に導入したサービスが「
SWIFT global payments innovation(gpi
) 」である。
このサービスは、参加する金融機関による送金指示、資金決済、入金処理の自動化を進め、「gpi Tracker」という追跡可能な番号を付番することによって、(1)国際送金の即日着金、(2)手数料の透明化、(3)送金処理の追跡可能性、などを実現するものである。実際に「SWIFT gpi」導入によって送金の50%以上が30分以内の口座入金、ほぼ100%が24時間以内の入金を実現していることに加え、送金の処理状況を刻一刻とトレースできるようになったという。
世界的に本格展開が開始された2020年には、日本国内においてもメガバンクを中心として複数の銀行が対応を発表している。
【次ページ】ニーズに応えるために生まれた「SWIFT Go」とは