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  • 2021/04/05 掲載

ズームの「驚異的成長」は一過性か? この後も継続するのか

連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質

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ビデオ会議のズーム(Zoom)は、この1年間に驚異的な成長を遂げた。多くの人の仕事の進め方や生活のあり方に、大きな変化をもたらした。2020年秋には、ズームの時価総額が、アイ・ビー・エムやエクソンモービルといった伝統的な巨大企業のそれを上回った。ここにコロナ禍という特殊要因が影響していることは間違いない。しかし、コロナが終わっても残る継続的な変化があることも、また間違いない。今後、5GやVRなどを用いる、さまざまな新しい遠隔コミュニケーションの手段が開発されていくだろう。それらをうまく利用できる人や企業が、未来の世界を築く。
執筆:野口 悠紀雄
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世界は「移動からリモート」に大転換した
(Photo/Getty Images)


「移動からリモートへ」の大転換

 この1年間で、ズームは、我々の仕事と生活のスタイルを一変させてしまった。これほど短期間のうちに、これほど大きな変化をもたらしたサービスは、これまでなかった。

 私自身も、去年の初めには、ズームというサービスがあることさえ、知らなかった。テレビ会議というものがあることは知っていたが、あまり重要なものとは思えなかった。

 ところがいまでは、1週間に何度もズームで打ちあわせを行ったり、インタビューを受けたりしている。

 私の場合について言えば、リアルなオフィスを持つ必要がほとんどなくなってしまった。ビデオ会議のほうが、はるかに効率的に仕事ができる。

 ズームの1日の会議参加者は、2019年12月には1,000万人程度だったが、2020年4月時点で3億人と、30倍になった。

 2020年6月には時価総額が689億ドル(約7兆円)に到達。これは、米国の航空最大手7社の時価総額(5月15日で438億1,000万ドル。当時のズーム時価総額が488億ドル)を上回ったとして話題になった。

 これまでは、仕事をするために移動する必要があったので、航空会社のサービスが重要だった。ところが、コロナで移動が制限されたために、航空会社の売り上げが急減し、時価総額が減った。それに対して、ズームが提供しているのは、移動しなくても仕事ができる仕組みだ。それが航空会社のサービスに取って変わったのだ。

 上の数字は、「移動からリモートへ」という転換を象徴するものだった。

 第2次大戦後、ジェット旅客機や、新幹線などの高速鉄道の登場、高速道路の整備など、交通機関や施設の発達・整備によって、距離が縮小した。こうした技術の方向付けが、大きく転換したのだ。

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「リモート」への転換は経済にも影響を与えた
(Photo/Getty Images)

ズームの時価総額がアイ・ビー・エムやエクソンを超えた

 その後もズームの株価は上昇を続けた。株価が1日で41%も上昇することもあった。9月1日には、時価総額が1,291億ドル(約13兆6,800億円)となり、IBMを上回った。

 我々の学生時代、大型コンピューターのメーカーであるアイ・ビー・エムは、未来を切り開く企業の代表だった。その中央研究所にはノーベル賞の受賞者がきら星のようにおり、理工系の学生にとって、憧れの対象だった。

 ところが、そのIBMを、2011年に創業したばかりのズームが、時価総額で抜いてしまったのだ。

 これは、情報産業の中でも、大きな構造変化が起きていることを示すものだった。

 さらに、10月29日には、 ズームの時価総額は1,400億ドル(約14兆6,400億円)となり、石油大手エクソンモービルの1,370億ドルを上回った。

 石油に対する需要の大幅な落ち込みで、エクソンモービルの時価総額が2020年に入ってから半分以上減少したという事情があったからだが、それにしても、1870年のスタンダード・オイルまで歴史をさかのぼることのできる巨大石油会社を上回ったというのは、驚き以外の何ものでもない。

ズームが「需要の急増」に対応できた理由

 ビデオ会議には、マイクロソフトのMicrosoft Teams、グーグルのGoogle Meetなど、競合製品が多数ある。その中でズームの躍進が目覚ましかったのはなぜか?

 最大の理由は、仕組みがシンプルで、誰でも簡単に利用できたからだろう。

 パソコンで参加するだけであれば、文字通り、何の設定もなしに利用できる。スマートフォンでも、アプリをダウンロードすればすぐ利用できる。こんなに簡単に利用できるアプリは、これまでなかった。

 それでいて、必要な機能は満たしている。そして、無料で使えるサービスが幅広く提供されている。

 ただし、それだけでなく、急激な需要増に対応できたことも重要だ。これは、「デジタル」だからできたことだ。財の生産であれば、需要が急増しても、それに直ちに対応することは難しい。

 DCD(Data Center Dynamics)の報道によれば、コロナ危機の前、ズームは、独自のデータセンターを使用していた。しかし、既存のデータセンターでは、コロナによる需要の急増に対応することができなかった。

 そこでズームは、AWS (Amazon Web Services)から一度に5,000~6,000台のサーバーを確保したという。それによって、迅速にスケールアップすることができた。

 また、ズームサービスの安全性問題が指摘されたが、対応を約束し、迅速にそれを実行した。

【次ページ】ワクチンの開発で、ズームの成長は止まるのか?
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