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- 2021/02/10 掲載
東大 柳川 範之教授が語る、コロナ禍で“データ駆動型”の産業再編が加速する理由
フィンテックが金融産業に与えるインパクトの本質
コロナ禍でテレワークやペーパーレス化が一気に進んだ。政府によるデジタル庁の設置も発表されて、本格的な「デジタル化」のトレンドが加速している。ただし、それは単なる業務のIT化ではない。柳川氏は「より注目すべきなのは、デジタル化の結果として起きる産業構造の変化です」と述べる。つまり、まったく新しい産業が生まれたり、産業の垣根が壊れたりする変化が起きるということだ。
現在、それが顕著なのが金融の世界だ。ソフトバンクグループがキャッシュレス決済の「PayPay」を開始したように、金融産業を囲んでいた高い垣根が徐々に破壊され、IT企業を中心とする新しいプレーヤーが金融の世界に進出しつつある。
ただし、金融の本質は変わっていないと、柳川氏は次のように説明する。
「金融業の本質は情報生産にあります。現在、マネーが情報のビークルになるという変化が起きていますが、それ以前から、金融、たとえば銀行がやりとりしているものは、お金ではなく情報であり、銀行には情報生産という重要な役割があるのです」(柳川氏)
預金者があらゆる情報を持っているなら、自ら企業に資金を貸せばいい。しかし、それをしないで銀行に預けるのは、預金者の持っていない情報を銀行が持っているからだ。それが、銀行をはじめとする金融仲介機関の役割であり、存在意義でもある。
そしていま、情報技術の革新は、この「情報生産」という金融の本質を変革しようとしている。
「ただし、まだそれほど大きい変化は起きていません。金融業が規制で守られているからです。技術があるからといって、誰でも銀行をやれるわけでも、証券を発行できるわけでもありません。とはいえ、技術革新のインパクトが、規制を上回ってくるのは間違いないでしょう」(柳川氏)
金融機関の顧客とは? 顧客ニーズに合ったサービス提供の重要性
この変化に対応するために、金融機関が具体的に考えるべきことは何か。それが「金融サービスの高度化」である。柳川氏は、その本質は「ニーズオリエンティッドなサービス提供」だと指摘する。「どんな産業にもいえることですが、いかに優れた技術でも、顧客ニーズに合ったサービスを提供できなければ“絵に描いた餅”です。たとえば、3Dテレビは技術的には非常に優れていました。しかし、家庭にそのニーズはなかったのです」(柳川氏)
では、金融機関にとっての「顧客」とは誰なのか。もちろん、優良な貸出先は重要な顧客だ。しかし、これまでの金融機関は、本来は重要であるはずの一般預金者を、あまり重視してこなかったのではないか。
具体的には、一般預金者に対しては、顧客が来てから対応する受動的なサービス提供にとどまり、金融機関のほうから積極的にサービスを提供する努力を怠ってきたのではないか、と柳川氏は問いかける。
「一般の預金者がどんなニーズを持っているのか、多くの金融機関はこれまであまり考えてこなかったのではないでしょうか。今となっては後悔すべきポイントですが、今後を考えると、逆にそこに大きいビジネスチャンスがあるのだと思います」(柳川氏)
【次ページ】データを“審査”はしてきたが、“活用”はしてこなかった金融機関
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