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今や世界46カ国の中央銀行が発行を検討しているとされる中央銀行デジタル通貨(CBDC)。国内でも、政府や日本銀行の動きが活発化するにつれて注目度が高まっている。一方、日本銀行は7月、「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」を発表し、CBDCの技術的な課題をまとめた。CBDCは現時点でどのような技術的課題を抱えているのだろうか。LayerXの福島 良典氏を進行役に、日本銀行 副島 豊氏、ソラミツ 宮沢和正氏、麗澤大学 経済学部教授 中島 真志氏、LayerX 中村 龍矢氏、日本ブロックチェーン協会 加納 裕三氏、元スタートバーン 大野 紗和子氏が議論した。
※本記事は、日本ブロックチェーン協会(JBA)のデジタルガバメント推進分科会が2020年6月11日に主催したオンラインイベント「 日本版CBDCを考える 」の内容をもとに再構成したものです。
オフライン決済の難しさ
CBDCの技術的課題について、日本銀行 副島氏は開口一番、オフライン決済の難しさを挙げた。過去に電子マネー「Edy」立ち上げから普及まで中心的役割を担ったソラミツ 宮沢氏もこれに続いた。
宮沢氏は、「EdyやSuicaはオフライン決済に見えて、そうではない。実はバッチ処理をしているだけで、後で台帳を書き換えている」と明かした。
そのため、実際の店頭での決済と台帳の金額が合わなくなるケースがあるという。原因は、ネットワークのトラブルやユーザーが処理前に手を離すなどのミスが考えられるが、その金額は非常に大きく、宮沢氏は、「同様の仕組みはCBDCには使えないだろう」とした。
スケーラビリティの問題
続けて宮沢氏は、自身が開発し、1年前から展開しているカンボジアのCBDC・バコンについて、「残る最も大きな技術的課題はスケーラビリティ(決済の増大に適応する能力や度合い)だ」と説明、それ以外は解決済みとし、この課題の難しさを強調した。
スケーラビリティの問題は、ブロックチェーン技術の仕組みに起因するものだ。ブロックの中に書き込めるデータ量は限られる。そのため、そのブロックチェーンのユーザーが増えるにつれてトランザクションが増え、処理能力は低下する。これが、送金の遅延や要求が承認されないなどといったトラブルの原因となる。
日本ブロックチェーン協会 加納氏は、スケーラビリティ問題の解決策の1つとして、シャーディング(DB負荷分散手段の1つ。1つのテーブルに保存していたレコードを分散する事で各DBに保持されるレコードの量を減らす)を挙げたが、この方法も、残高にずれが生じる場合があるとした。
また、加納氏は、CBDCを地域で分散して決済の仕組みを運用する「ローカルセトルメント」に関しても、「都内から北海道と大阪に同時に支払う場合、セトルメント(決済)をどう担保するかが課題だ。それぞれの決済残高が確認できるまで待っているとかなりの時間がかかる。さらに、この仕組みでは二重支払いの課題も残る」とした。
一方、LayerX 中村氏は、BCDCにおいて、「スケーラビリティはそこまで問題にならないのでは」と指摘した。
「ブロックチェーンのスケーラビリティの問題で最大のボトルネックはP2P ネットワークでのコンセンサスです。しかし中央銀行の場合、たとえコンセンサスをしたとしても、非常に狭い区域で、しかも強靭なネットワークを使っているはずです」(中村氏)
中村氏は、スケーラビリティについて目くじらを立てるほどの問題には発展しないだろうとして、さまざまな可能性があることを示唆した。
プライバシー保護の問題
LayerX 福島氏は、中国のデジタル人民元を例に、「通貨を国に握られることで、すべてがトレースされ、プライバシーがなくなるのではないかといった懸念がささやかれている」と紹介した。
「スケーラビリティはそこまで問題にならない」としたLayerX 中村氏にとっては、プライバシー問題が最も難しく、「解消までに数年は用するだろう」との認識があるようだ。
その上で、「最も簡単な方法は、対象のブロックチェーンを見る人を制限すること。たとえば、中央銀行の担当者のみに制限し、ユーザーや市中銀行は見ないなどとすることで、ある程度プライバシーを担保できるのでは」と、アイデアを語った。
加納氏は、「夢の話」と前置きした上で、現状のCBDCには匿名性がないことを挙げ、「匿名CBDCと実名CBDCを作ればいい」と提案した。
「マネーロンダリング対策のための本人確認は必要ですが、10万円までは匿名口座、匿名のトークン型のCBDCが発行され、自由に使えるというのであれば、匿名性とマネーロンダリング対策が両立できるのでは」(加納氏)
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