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新型コロナウイルスの影響で深刻な景気後退が予想される中、日米の株価が堅調に推移している。「量的緩和策による金余りの結果にすぎない」「単なる反動」といった声が多いが、コロナ危機がもたらす企業変革への期待という見方もある。株高の背景について探った。
堅調な株価とは裏腹に実体経済はかなり深刻
ニューヨーク株式市場は、2020年2~3月にかけてコロナ危機の影響で大幅下落となったが、その後、反転上昇に転じ、6月には一時2万7,000ドルを超えるまでに回復した。米国では一向に感染終息の兆しが見えないことから、株価上昇は一服しているが、経済の現状を考えると、異様な株価の高騰といって良いだろう。
東京株式市場もニューヨークとほぼ同じ動きを見せており、日経平均株価は3月を底値に上昇が続き、6月8日には終値で2万3,000円を突破。コロナ暴落前(2万4,000円)に迫る勢いだった。米国と同様、その後、株価上昇は一段落しているが、大幅に下落する気配は今のところない。
堅調な株価とは裏腹に実体経済はかなり深刻である。
総務省が発表した5月の完全失業率は2.9%と2カ月連続で上昇したほか、就業者数も前年同月比で76万人も減っている。加えて、契約上は雇用されていても、実際には仕事がない休業者は400万人を超えると推定されている。これは日本全体の就業者の約6%に達する数字である。
日本の場合、中小企業を中心に労働法制が守られないケースがザラにあり、本来、事業者の義務である休業手当を支払っていない企業も少なくない。秋にかけて人員整理を強化する企業が増えるとも言われており、雇用情勢がさらに悪化する可能性もある。いずれにせよコロナ危機によって国民の所得が大幅に減るのは間違いないだろう。
当然のことながら、家計は支出をかなり絞っている。
4月の家計調査では、2人以上の世帯における消費支出(実質)は前年同月比11.1%の減少となっている。もともと消費増税以後、消費支出のマイナスが続いていたが、コロナが拍車をかけた格好だ。外出自粛が解かれた6月以降は、多少、消費は回復するだろうが、雇用情勢が悪くなることは皆が理解しているので、大幅な支出拡大にならないのは明白である。
1株あたりの利益が大幅に低下しても株価は上昇
IMF(国際通貨基金)では、2020年の世界経済について実質でマイナス4.9%と予想しており、日本についてはマイナス5.8%となっている。これは実質の成長予測だが、物価が変動しないとして、この数字を単純に名目GDPにあてはめると30兆円以上の富が失われる計算になる。
トヨタ自動車など大手企業は売上高が2割減少することを前提に事業計画を練り直している。仮に日本の大企業(資本金10億円以上)の売上高が2割減少すると、当期純利益は約4分の1に激減してしまう(企業の財務データから筆者が試算)。
株価は1株当たりの利益(EPS)に株価収益率(PER)を乗じることで算出できるが、PERがコロナで変化しないと仮定しても、EPSは4分の1に減ってしまうので、最悪のケースとして日経平均株価が現在の4分の1になっても不思議ではない。ところが、現実の株価はコロナ前の水準を伺う状況となっており、どう考えても実体経済との整合性が取れない状況が続いている。
株価がEPSとPERで形成されるのなら、予想EPSが低下しているにもかかわらず株価が下がっていないのはPERが上昇していると解釈せざるを得ない。
企業の時価総額は、将来の期待キャッシュフローを現在価値に割り戻して計算されるが、この数字は割引率をいくらに設定するのかで大きく変わってくる。割引率は基本的には将来期待を反映するので、いずれにせよ将来の見通しが大きく変化したとの解釈になるのは同じである。
PERが大幅に上昇する局面というのは、一般的に2つ考えられる。1つは過剰流動性によってインフレ期待が高まっている時。もう1つは、イノベーションの進展が期待される時である。
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