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経済活動と新型コロナとの共存を考える上で、キャッシュレス決済の推進は切っても切り離せない。不特定多数が触れる現金を敬遠する向きもあり、政府の専門家会議が提唱した「新しい生活様式」でも電子決済の利用が推奨されている。また、2020年後半に政府が展望するキャッシュレス推進施策にもこれまでとは異なる「意義」が見て取れる。コロナ禍で生まれたキャッシュレス決済の意義とは何か、Fintech協会 代表理事会長 丸山 弘毅氏が解説する。
※本記事は、電子決済代等行事業者協会とFintech協会が2020年5月27日に共催した勉強会「2020年下半期キャッシュレス動向/金融サービス仲介業最新状況」の講演内容をもとに再構成したものです。
「Go To キャンペーン事業」は、キャッシュレス推進事業でもある
2019年10月から2020年6月まで消費税増税後の経済対策として導入された「キャッシュレス・ポイント還元事業」は、生活様式の変化も追い風となり、当初の予想を超える広がりを見せた。事業開始から2020年3月2日までの対象決済金額は約6兆5,000億円、還元額は約2,690億円に上った。加盟店数に関しても、事業終了直前の5月には約114万店にまで増加した。
これらの動きを受け、日本におけるキャッシュレス決済の手段は、クレジットカード一辺倒から大きく変わりつつある。決済金額で見れば、依然としてクレジットカードが6割を占める。一方、決済回数では、QRコードや電子マネーが大半を占めるようになった。これは、日常の決済手段として、QRコードや電子マネーがクレジットカードに肉薄する段階に入ったことを示しているだろう。
今後は、この流れをいかに定着できるかが焦点となる。なぜなら「キャッシュレス・ポイント還元事業を契機にキャッシュレス決済サービスを導入はするものの、終了後はそのデメリットを重く見て、現金決済に戻す企業が多数存在するのでは」という見方もあるからだ。
キャッシュレス決済が行われてから実際に入金されるまでには一定の時間を要するため、キャッシュフローを悪化させる可能性がある。また、慣れないうちは店舗側も顧客側も手間取り、現金のときはスムーズにできていた決済が面倒なものなってしまう場合もある。これらの懸念を払拭するメリットを政府が提示できるかも注目されている。
丸山氏は、キャッシュレス決済推進の観点で最も注目すべき政策として、約1兆7,000億円の予算が計上されている「Go To キャンペーン事業」を挙げる。
Go To キャンペーン事業は、新型コロナウイルスの影響で大幅に売り上げが落ち込んでいる観光や運輸業、飲食業、イベント、エンターテインメント業などを対象とした官民一体の需要喚起キャンペーンだ。プロジェクトメンバーには経産省のキャッシュレス推進室が名を連ね、キャッシュレス決済推進の一翼を担うと見られている。
たとえばGo To Travel キャンペーンでは、旅行業者経由で期間中の旅行商品を購入した消費者に対し、代金の半額相当分のクーポンなどが付与される。また、期間中にオンライン飲食予約サイトを使って飲食店を予約、来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイントを付与する。
さらに、これは決済手段に限らないが「ICTを活用した非接触」もテーマの1つに掲げられており、現金以外の仕組みが用意されると推測できる。
丸山氏は「新型コロナの影響で、地域の飲食店や小規模店舗もデリバリーを始めたり、スマホで注文できるようにしたりと試行錯誤されている。スマホでデリバリーを予約し、届く前に支払を確定させてしまうという具合に、キャッシュレス決済を採用する店舗も増えてきた」と指摘。
一連のキャンペーンは、新型コロナによって消費者の習慣が変わり、業態のあり方が変わったという流れをうまく反映したものになっている」と評価した。
キャッシュレスも「中央主導」から「地域主導」へ
もう1つの注目すべき政策は、地域活性化に重きを置いた「自治体キャッシュレス推進」だ。
経産省は2020年4月、自治体窓口や公共施設のキャッシュレス化に取り組む「モニター自治体」を募集し、29の自治体を選定した。経産省は、モニター自治体と一体となって、自治体におけるキャッシュレス化のプロセスから生じるノウハウや課題を手順書にまとめ、より多くの自治体のキャッシュレス化に役立てたいとしている。
この取り組みは、先述のGo To キャンペーン事業との相乗効果で、全国各地にキャッシュレス決済を浸透させられることが期待されている。丸山氏は「政府主導、大手企業主導だけではなく、今後は地域が主体的にキャッシュレス決済を推進していくようになる」と予測する。
「この自治体のキャッシュレス推進に関しては、Fintech協会がいくつかの自治体にヒアリングし、協力を依頼しました。現状は、証紙の購入や各種更新の際に現金しか使えない、自治体が運営する施設も電子マネーやクレジットカードが使えないというケースが大多数です。しかし、キャッシュレス化を進めば、住民の利便性が向上するだけではなく、現金を取り扱う手間の削減など、自治体の業務効率化にもつながります」(丸山氏)
新型コロナへの対応をきっかけに、人力に頼ったアナログな自治体業務の課題が露わになったばかりだ。人口減少や高齢化が進み、人手不足が加速している地域こそ、デジタル技術の活用が急がれる。
また、新型コロナで浮き彫りになったのは、国に頼りきりではなく、地域が自立し、その地域に合った施策を迅速に進めていくことの重要性だ。コロナ禍は本当の意味での「地方創生」を問うている。足元に広がる経済と、その可能性を引き出すためにも、キャッシュレス決済は重要な手段となり得る。
【次ページ】2020年後半は「統一QR」「マイナポイント」でキャッシュレス推進