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- 2020/05/14 掲載
150億円投資のデジタルバンクが5カ月で撤退、大手銀行の失敗に何を学ぶか
FINOLAB コラム:
RBSからの発表内容を振り返る
「RBSは個人向けデジタルアカウントであるボー(Bó)と中小法人向けのデジタルバンクのメトル(Mettle)を統合します。その結果、Bóは顧客向けのブランドとしては廃止され、システムインフラはそのままMettleに組み込まれることになります」原文:
「RBS will bring Bó our personal digital account, together with Mettle, the digital bank for SMEs.
As a result,BS will wind down Bó as a customer-facing brand.
The technology used in Bó will be integrated into Mettleas it is developed.」
鳴り物入りで登場したBóとは何だったのか
RBSは英国4大銀行の中でもデジタル戦略の出遅れが目立っていたこともあり、多くのチャレンジャーバンクの出現により顧客が奪われていく脅威に対して手を打つ必要性を感じていた。このため、チャレンジャーバンクの代表的な存在であるモンゾ(Monzo)の買収を打診したが成功しなかったため、自前で類似のサービスを構築することを決定し、2018年9月にBóの構築に着手した。
構築のための予算として100万ポンド(当時のレートで約148億円)を計上したが、100万超の顧客を獲得していたMonzoを買収するよりも少ない金額で同様のサービスを構築できると説明。
RBSが提供することによってMonzoなど多くのチャレンジャーよりも「貯蓄メニューの充実」「セキュアなサービス」といった点で 差別化を図っていくものと説明された。
システムインフラの構築には、テクノロジーに強いコンサルティング会社 オリバー・ワイマン(Oliver Wyman)を起用、2019年6月には資金難に陥っていた若者向けの金融アプリLootのメンバーとインフラを取り込むなどして準備を進め、2019年11月にサービスを開始した。
サービスメニューとしては、入出金の明細管理が簡単にできるスマートフォンアプリとデビットカードを組み合わせるなど、他チャレンジャーバンク、特にモンゾ(Monzo)のサービスを意識した内容となっており、「大手行の逆襲」といったトーンでメディアに大々的に取り上げられたことは記憶に新しい。
営業期間わずか5か月での撤退発表
決算発表に際してRBSのCEOであるアリソン ローズ(Alison Rose)氏は、コロナ危機によるコスト削減の必要性がBó撤退を決断するきっかけとなったことを認める一方で、「Bóが失敗したという訳ではなく、SME(零細・中小企業)向けのデジタルサービスMettleと統合しただけである」とメディアに語ったという。統合先となるMettleはBó 開業の前年、個人事業主や小規模法人の分野においてもスターリングバンク(Sterling Bank)などチャレンジャーバンクの参入によって大手企業のビジネスが脅かされることから、RBS傘下のNatWestが提供するブランドとして2018年11月に営業を開始している。システムインフラをBóと統合的に運用するという点は不自然ではないが、顧客セグメントの異なる両サービスにシナジーを生み出そうという説明はかなり苦しいと言わざるを得ない。
Bóの早期撤退の一因がRBS内の人事抗争にあったことも多くのメディアで報じられている。Bóのトップとして構想段階からリードしていたマーク ベイリー(Mark Bailie)氏が、Alison RoseがRBSのCEOに就任した直後の2020年1月に退任しており、両者の間に運営方針をめぐる議論が以前から続いていた模様である。組織内での求心力を失ったBóの命運もそこで尽きたということのようである。
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