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  • 2020/03/19 掲載

打つ手なしの絶望、「40代のロスジェネ男」はこれだけ人手不足でも雇われない

連載:橘 玲のデジタル生存戦略(6)

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日本では、就職氷河期に遭遇してうまく社会に出られなかった、いわゆる“ロスジェネ世代”の存在が社会問題化している。彼らが望んでこじらせた人生ではないが、果たして今から修復する術はあるのか。一方、企業組織も雇用を死守するあまり、閉塞感に満ち満ちている。この先世界と戦っていくためにはどうすればよいのか。作家 橘玲氏が解説してくれた。
執筆:作家 橘 玲
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ロスジェネ世代の一部はキャリアを築く機会がなかった
(Photo/Getty Images)

日本社会の中で難しい立ち位置にあるロスジェネ世代

 日本には、卒業時期に就職氷河期に遭遇し、うまく社会に出られなかった世代が存在します。いわゆるロストジェネレーション(ロスジェネ)世代で、だいたい1970年から1982年生まれぐらいが相当し、2020年現在、40代からそろそろ50に手が届く年齢になっています。

 彼らの一部は就職活動に失敗して非正規の仕事に就くしかなく、キャリアを築こうにもその機会がありませんでした。この世代は日本社会の中で難しい立ち位置にあります。

 前回述べたように、若い世代には会社のなかで異動を重ねながらゼネラリストになるのではなく、いったん自分の専門(スペシャル)を決めたら、転職しながらそれを伸ばしていったほうがいいとアドバイスできました。

 しかし、そもそもキャリアを持たない40代がこれからどうやって生きていけばよいのか。政府が支援するといいますが、日本国の抱える天文学的な借金を考えれば、気前良くお金を出すとはとうてい思えません。

 日本は民主国家なので、経済的な困難にある人たちをどこまで支援するかは、最後は有権者の判断に委ねることになりますが、結局は「自己責任」とか、親が面倒を見るべきだという論調になるような気がします。

 その結果、この世代は日本社会に対して強い怒りを抱くようになったのかもしれません。Yahoo!ニュースに大量のコメントを投稿しているのは40代とのデータがあります。さらには京アニ事件をはじめとする近年の重大犯罪はこの世代の男性が犯人であるケースが多く、それによってますます世間の視線は厳しくなっています。

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求人倍率の推移。就職氷河期は明らかに低下していることがわかる
(出典:厚生労働省(有効求人倍率)、リクルートワークス研究所(大卒求人倍率))

若者たちの雇用を絞って自分たちの雇用を守った

 都会で行き詰まった女性が、40前後になって地方の実家に戻ることはよくあるでしょうが、周りの人は「親の面倒を見に戻ってきた」と好意的に解釈してくれます。一緒に散歩に出た親が「娘がいろいろやってくれるんですよ」と近所の人に自慢して、「いい娘さんがいてよかったですね」とうらやましがられる。その娘が独身でも、最近は珍しくないのでみんな気にしないでしょう。

 それに対して、都会に出た40代の独身男性が地方の実家に戻ってきたらどうでしょう。何か訳ありの匂いがして近所の人も警戒するし、親も世間体を考えて外に出さないようにして、ひきこもりのような状況になってしまうのではないでしょうか。事件が起きるまで、息子が戻ってきているのを隣近所の人が知らなかったというのはこのケースです。

 そんな事件が大きく報道されるため、40代になって実家に戻ってきた男性への周りの視線がいっそう冷たくなるという悪循環に陥っています。こうした状況が職業訓練で大きく変わるとは思えません。何もやらないよりはマシかもしれませんが、それなら彼らが20代のときにやっておくべきでした。

 実際、その声はあったのです。彼らが20代で就職難に直面しているとき、労働経済学者から、これは「若者差別」で、ちゃんとした仕事に就かない若者がたくさん生まれたら将来、大変なことになるとの声が上がりました。

 そうしたら、何が起きたと思いますか? 団塊の世代を中心にしたいわゆるリベラルを自称している人たちが、「世代間差別を煽るな」といってバッシングしたのです。本音は、若者の就職を支援すると自分たちの雇用が危うくなるからです。大企業の労働組合が、新卒採用を抑制させて、若者を非正規に追いやったのがその典型です。

 その結果、労働経済学者が危惧したとおりの状況が起きました。それが“8050問題”です。いまや50代の子供が80代の親の面倒を見るのではなく、80代の親が年金で50代の子供を養っているのです。

 そんな世帯では、これから親が死んで遺産もない、年金もない、あるのは朽ち果てた持ち家だけというケースがどんどん増えてくる。そんな暗澹(あんたん)たる未来が想像されます。

【次ページ】人手不足の現場でも、心証の悪い40代男性は雇いたくない
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