- 会員限定
- 2020/02/07 掲載
新経済指標「GDP+i」とは何か? デジタル時代のGDPは“消費者余剰”も含めるべきだ
連載:キャスター鈴木ともみの日本橋・兜町レポート
自分を「上」「中の上」と感じる人が増えている
NRIで上級研究員をつとめる森健氏は、ここ数年で国民の生活実感は変化してきていると指摘する。同社が3年ごとに行っている「生活者1万人アンケート調査」によれば、「世間一般からみた自分の生活レベルに対する意識」は上昇しており、2010年頃から生活者レベルが「上」もしくは「中の上」であるという回答は増加しているという。つまり、自分を「上」「中の上」と感じている人は、年齢を問わず増えており、さらに、スマホの利用頻度が高く、特にスマホを一時間に一回以上利用する人ほど、生活実感レベルが高いと感じている傾向になった。
このアンケート調査を分析した森氏は、「自分の生活レベルに満足している人たちに共通しているのは『インターネットなどで生活情報、お得情報を集めることで、賢い消費ができるようになった』と回答している点だ。デジタルの活用度合いが高い消費者ほど生活の満足度が高く、ここ数年はその活用レベルが格段に高まったことで、賃金の伸びがなくとも、生活水準を高く維持している様子が定量的に観察できた」と説明する。
つまり、GDPやCPIという既存の経済指標が低迷していても、デジタルの利活用によって、国民一人ひとりが賢い消費をするようになり、以前よりも生活の満足度が上昇してきているのである。
GDPに“ピンボケ”をもたらす「消費者余剰」
さらに、この生活満足度が高まってきた背景にあるものは何かというと「消費者余剰」の拡大という事実が浮かび上がってくる。消費者余剰とは、消費者が最大支払っても良いと考える価格と、実際の取引価格の差分のことを言う。つまり、生活者が何か物を買ったりサービスの提供を受けたりするときに、この内容であればこれぐらいは支払っても良いと思う金額=「支払意思額」と、実際の価格との差分が消費者余剰となる。
消費者にとっての「お得感」とも言え、この消費者余剰は既存のGDPに計測されていない。
一方、生産者も実際は価格よりも低いコストで商品を生産しており、価格とコストとの差分が「生産者余剰」となる。この「生産者余剰」は、企業の利益(利潤)を示しており、この数値はGDPに計測されている。
森氏によれば、「デジタル化が進んだ昨今、消費者の支払意思額は以前とあまり変わらないのに、モノの価格が生産コスト以上に大きく下落してきたことによって、消費者余剰の拡大が生じている」という。
さらに「この消費者余剰の拡大は、既存のGDPに反映されていないため、経済情勢(実体経済)と生活実感の間にギャップが生じ始めている」と指摘し、この現象を「GDPのピンボケ現象」と呼んだ。
デジタル時代の新経済指標「GDP+i」とは
NRIとロッテルダム経営大学院(Rotterdam School of Management)の共同研究によれば、日本では2013年に101兆円、2016年には161兆円の消費者余剰がデジタルサービスから生み出されており、そのGDPは全体の3割にも相当することがわかった。そこで、このピンボケ(差分)を解消するために、NRIは消費者余剰を定量化し、それを付加した計測値である新指標「GDP+i」を提唱した。
この新指標は、デジタル社会に対応しきれなくなった既存のGDPの欠点を補う計測値であると森氏は説明する。
「デジタルが生み出す消費者余剰は、実際の金額としては発現しない『虚数=i』のような概念上の存在となる。NRIはこれとGDPを足し合わせた数値『GDP+i』をデジタル時代の新経済指標として提案したい」
これを見ると、2013年から2014年にかけて日本の実質GDP成長率は年0.7%だが、消費者余剰を合算する「GDP+i」は年率3.8%で増えている。これは冒頭に紹介した「国民の生活実感」の結果に近いと言えるだろう。
【次ページ】「GDP-B」など、GDPを超えた指標を生み出す取り組み
関連コンテンツ
今すぐビジネス+IT会員にご登録ください。
すべて無料!今日から使える、仕事に役立つ情報満載!
-
ここでしか見られない
2万本超のオリジナル記事・動画・資料が見放題!
-
完全無料
登録料・月額料なし、完全無料で使い放題!
-
トレンドを聞いて学ぶ
年間1000本超の厳選セミナーに参加し放題!
-
興味関心のみ厳選
トピック(タグ)をフォローして自動収集!
投稿したコメントを
削除しますか?
あなたの投稿コメント編集
通報
報告が完了しました
必要な会員情報が不足しています。
必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。
-
記事閲覧数の制限なし
-
[お気に入り]ボタンでの記事取り置き
-
タグフォロー
-
おすすめコンテンツの表示
詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!
「」さんのブロックを解除しますか?
ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。
ブロック
さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。
さんをブロックしますか?
ブロック
ブロックが完了しました
ブロック解除
ブロック解除が完了しました