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- 2019/09/10 掲載
みずほ証券 小川 久範氏:フィンテックがキャズムを超えられない理由
FinTech Journal創刊記念インタビュー
日本のフィンテック年は2012年
Finovateというグローバルイベントがある。2007年にスタートした金融テクノロジー専門カンファレンスで、現在では世界最大級のフィンテックピッチイベントに成長した。日本のフィンテックの夜明けは、このカンファレンスに早くから参加してその潮流を肌で感じるとともに、日本で情報発信、陰になり日向になり支援してきた人々によって開かれた。小川氏はまさにその中の1人である。「日本にも金融とITの融合という流れが来るのでは、来てほしいと思って、調査を開始しました。フィンテックベンチャー──当時はまだこの言葉も存在していませんでしたが──を調査する直接のきっかけとなったのは、2012年に米国オバマ前政権下で成立した新興企業促進法(Jumpstart Our Business Startups Act、JOBS法)です。これを受けて、クラウドファンディングに関する調査を行ったことをきっかけに、国内でフィンテックに取り組む方々との接点ができました。同年にマネーフォワード、コイニーといった“はしり”の企業が生まれ、2013年頃に私も取材にいきました」
小川氏はそう振り返る。ただ、その後フィンテックベンチャーの誕生はあまり多くはなかった。しかし、情報発信し続けることは重要と、豊富な海外事例をまとめてレポートを出す。それが2014年秋のことだ。2015年前半になってNHKのニュースなどでもフィンテックが取り上げられ、一般の人々にも知られるところとなった。小川氏のレポートを読んだ金融機関から依頼を受け、同氏も説明に出向いたりしていたという。
しかし、なぜ今になって金融とITの融合なのか。ペイパル(PayPal)が決済手段をオンライン化したのは1998年だ。
「たしかにペイパルもフィンテックと言えるかもしれませんが、どちらかというとこれは、黎明期のインターネットにおいて、送金やeコマースにおける支払いの手段が存在しない中で、その解決策として出てきたもの。金融とITの融合を特に意識したわけではありません。今のブームは、多様なネットサービスやアプリが当り前に利用されるようになった時代において、金融業界がセクターあるいはサブセクター単位で、そうしたテクノロジーによりアップデートされつつある点に特徴があると思います」(小川氏)
バズワードとしての「フィンテック」をもっとも活用した日本
ちなみに、フィンテックという言葉は、米国よりも先に日本で普及したらしい。米国に駐在するベンチャー企業幹部が国内のイベントに登壇した際「フィンテックについて教えてくれと日本から問い合わせが来るけれど、何のことをいっているのかわからない」と首を傾げたという。小川氏は「フィンテックという単語をもっとも活用したのは日本のフィンテックコミュニティで、フィンテックエコシステム(生態系)の形成や、フィンテックベンチャーの資金調達に好影響があったのでは」と推測している。一般社団法人Fintech協会を創設したフィンテックベンチャーが、マーケティング的な観点からブームをうまく盛り上げて、ベンチャーキャピタル(以下、VC)の興味を引き出そうとしたというのが同氏の見方だ。実際VCにとっても、そのようなブームの存在は投資決断を後押しする側面があるという。また、金融機関などでフィンテックに取り組む担当者にとっても、フィンテックブームにより社内外で活動しやすくなるメリットがあった。
しかし大勢としては、まだ鬼の体に針を刺すような動きにすぎなかった。金融機関の大半にとっては“他人事”であり、「この盛り上がりも2016年中には収束する」という悲観論さえ出ていた。日本のフィンテック隆盛に奔走していた人々たちの中に、このままではまずいという焦りが生じる。
「金融というのはある意味産業のインフラなのに、フィンテックがメインストリームになったら、すべて外資に持っていかれるのではないかという危機感はありました。“日本でも今後の方向性を考えて歩みを進めていかないと”ということで2016年2月に誕生したのが、三菱地所、電通、電通国際情報サービスの3社協業によるFINOLABです。私もメンター集団である金融革新同友会FINOVATORSの一員として参加するとともに、フィンテックベンチャーの集うところになりました」(小川氏)
【次ページ】ブームが続いている3つの理由とは?
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