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- 2019/08/13 掲載
東大 高木聡一郎氏:デフレーミングされる金融業界、ブロックチェーンで進むビジネスとの融合
FinTech Journal創刊記念インタビュー
金融業界は、業態も、業務もデフレーミングされつつある
金融業界には銀行、保険、証券といった業態がありますが、今やこういう業態の分け方は時代遅れになりつつあると思います。こう言うと業界間の相互乗り入れのように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。たとえば、決済機能だけをデジタルファーストでまったく新規に作れば、従来の銀行とは似ても似つかないものになります。もちろん実店舗がなくてもよく、モバイルで統合されていて、常に状況をスマホで確認できたり、操作ができたりします。あるいは何か決済したときに、レシートをメールやLINEなどデジタル形式もらうといったことが可能になります。
デフレーミングはメディア分野でも起こっています。一定のバランスでコンテンツをパッケージ化していたテレビが、エンターテイメントはAmazonやNetflixといったものに取って代わられつつあったり、ニュースはWebニュースに置き換わっていたり、ユーザーが作るコンテンツはYouTubeにシフトしていたりします。このように、伝統的なパッケージ化されたメディアがコンテンツやコンテキストに特化したメディアに移行しつつあることは、もうお気付きのことだと思います。
その次に今起こっているのは、そのように分解された機能が、最適な組み合わせで新しく組み替えられているということです。
たとえば、中国のWeChatの中心機能はコミュニケーションですが、これに決済機能がついた結果、WeChat Payになりました。これは従来の銀行が提供するサービスとはまったく違うものですが、よく考えると決済というのは人と人との関係の中で発生するので、コミュニケーションとは相性が悪くないのです。
同じことはアリババのビジネスにも言えます。彼らはもともとBtoBの商取引からスタートし、プラットフォームを持っていたのですが、商取引に必要な決済機能が徐々に拡充され、それを個人ユーザーに開放したところ、アリペイの決済機能として大きく成長したのです。
そして、決済情報が貯まっていくにつれて、今度はそれを信用情報として使ったらどうかということになりました。この信用情報は、従来のように銀行の融資の際に使うこともありますが、信用度の高い人には金利の低い特別なサービスを提供するなど、従来とはまったく違う、新しいタイプのサービスに利用されています。
ブロックチェーンでビジネスと銀行機能の融合が進む
こうした背景には、技術の進化によってユーザーエクスペリエンスが劇的に変化し、ユーザーがサービスに期待する水準がどんどん上がっていることが挙げられます。ユーザーは「これぐらいできて当然だ」と思っているのに、たとえば従来型の金融機関は全然追いついていません。そこへフィンテックの形で新興勢力が次々登場して、一定のポジションを獲得し始めているのです。
フィンテックの領域でも今注目すべきは、さまざまな業界のビジネスと、金融が担ってきた機能との融合です。とりわけ送金機能が顕著で、たとえば、カーシェアで利用されるEV(電気自動車)が決済情報を中央センターに送るとか、充電ステーションで駐車スペースと購入電力の金額を自動車が自律的・自動的に支払うとか、また、家庭のソーラーパネルで発電した電力を他の家に供給する際に決済するであるとか、IoTと連動したマイクロペイメントの必要性は非常に高まっています。
このように、まず起こるのは金融機能のユビキタス化です。また、あらゆる場面で決済情報が蓄積されていけば、それを信用情報サービスにも使えるでしょうし、直接融資をしてもいいかもしれないし、保険に発展させることもできるでしょう。
さらにブロックチェーンを利用することによって、価値を記録できる手段をビジネス主体者自らが持って活用することができます。これが実現するのは新しい経済圏の形成です。自動車メーカーなら独自の経済圏、住宅メーカーと家電メーカーがタッグを組んだ経済圏、この先そのようなさまざまな経済圏が出現してくるかもしれません。
【次ページ】ブロックチェーンが目指したのはお金のデジタル化とプライバシー保護
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